April 19, 2014

比類なきジーヴス

ジーヴスは何でもわかっている。どういうわけかは知らないが、彼は何でも知っている。彼の助言を笑い飛ばして前進し、すべてを失った頃もあった。しかし今の僕は違う。
「シャツのことだが、僕の注文した藤紫色のはもう届いたかな」
「はい。ご主人様。わたくしが送り返しましてございます」
「送り返した?」
「はい。ご主人様にはお似合いでございません」

「比類なきジーヴス」P.G.ウッドハウス著(図書刊行会)

人気のユーモア小説シリーズを読んでみた。1919年出版の連作短編集。ロンドンに住む伯爵家のお坊ちゃまバーティーが、他愛ないトラブルに巻き込まれるが、知恵者の執事ジーヴスが見事に解決する。評判通り、愉快愉快。

訳者の森村たまきさんが解説しているように、ダメ男バーティーのキャラクターが魅力的だ。お気楽で、若いくせにぶらぶらしていて、用事といえば散歩とクラブでのランチくらい。競馬に目がなく、服装の趣味はいまいち。何かというとジーヴスを頼っているけど、なかなかどうして決しておバカではないんだなあ。名門校出身で、会話では何気なく詩なんかを引用するし、妙な頼みごとをしてくる幼馴染じみビンゴ・リトルや従兄たちを、迷惑がりつつもちゃんと助けてあげる。古き良き貴族って感じ。
そんなご主人様の苦境を救う、ジーヴスの策略が痛快なのだが、そのプロセスで彼も恋人をゲットしていたり、したたかな面があって、いい味だ。バーティーが派手な服を買ってくると、決まってへそを曲げちゃうあたりがチャーミング。バーティーを陰ながら助けるというより、遠慮のない大人の友情が感じられる。
バーティーは全く頭が上がらない強圧的なアガサ叔母さん、惚れっぽ過ぎる懲りない男ビンゴと、その生活費を握っている叔父ら、脇役が個性的。しかもぎりぎりお下劣にならない、品の良さがある。愚かなドタバタと、にじみ出る教養。階級社会だからこそ成立するのかもしれないけど、イギリスでとってもポピュラーで、後続の作家に影響を与えたというのも納得できる。ユーモアのお手本のような小説です。(2014・4)

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March 06, 2014

去年の冬、君と別れ

この世界にいる人間は、多かれ少なかれ、復元されてるんじゃないだろうか?

「去年の冬、君と別れ」中村文則著(幻冬舎)

とっても格好良かった2009年の「掏摸」。英訳され、ウオール・ストリート・ジャーナルの2012年ベストミステリー10作に入って話題にもなりました。本作は再び、淡々とした読みやすい筆致だけれど、なかなか一筋縄でいかないミステリーだ。

物語はあるライターが取材のため、死刑判決を受けた男と接見するところから始まる。となると、シリアルキラーの内面を探る犯罪心理ものか、はたまた美女と人形という道具立てから乱歩風の猟奇ものなのか?などと思って読み進んでいると、見事に裏切られる。
曲者は、一人称の語りだろう。加害者はもとより、被害者、その関係者… この事件でいったい誰が、何の役割を果たしているのか。どんどん混沌としていく展開のなかからやがて、いびつな欲望と報復の構図が明らかになっていく。伏線が実に緻密だ。

興味深いのは伝説の人形師に、失った人そっくりの人形をオーダーするといった、「本物を復元して、その複製に執着する」という人間心理を軸にしていること。一見異常なエピソードなんだけど、実はストーカーとか熱狂的なアイドルファンとか、とても身近で現代的なところにあるものだと気づかされて、ぞっとする。
どんでん返しがちょっと懲りすぎていて、正直「掏摸」ほどには、スタイリッシュな緊迫感は味わえないかもしれない。とはいえ、細い彫刻刀で削り込んでいくような独特の世界は健在だ。これからも要注目の作家です。

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March 05, 2014

上京する文學

どうせ、もともと他府県からの寄せ集まりでできた「東京」。誰に何を言われようがかまわない。いや、誰にも何とも言われる筋合いさえない。そう考えたとき、「東京」が急に自由だと感じられるだろう。林芙美子はそうして生きた。

「上京する文學」岡崎武志著(新日本出版社)

漱石から春樹まで、書評家兼古本ライターが「上京」という角度から綴るユニークな作家論を集めた。
明治期に東京に移り住むのは、今でいう海外留学ほどのインパクトだったのだろうか。たとえば石川啄木は短い生涯の間、何とかして文学で身を立てようと、繰り返し上京した。その歌には交通機関や著名なランドマークなど、「よそ者が発見した都市」の姿が数多く詠み込まれているという。著者はそんな詩人の心性に、なぜか九州出身者が目立った70年代のフォークシーンと重ね合わせて、家や故郷を捨てた若者の高揚と屈折を見いだしていく。
ほかにも松本清張には、東京人でないからこそ描けた首都の負の側面があるとか、村上春樹が上京して初めて一人暮らしをして、独特の気障な「一人っ子」節に磨きがかかったのではないかとか、興味が尽きない分析が満載だ。自筆のイラストがユーモラス。

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February 01, 2014

愛しいひとにさよならを言う

遠くから見たら、それまで見えていたものが違って見えることがあるからだよ。それから、ほんとうのことは時間が経たないとわからないこともあるっていうことを、パリからきみは教わるかもしれないと思って。チャンスがあるなら、若いうちに、何度でも遠くに行ったほうがいい。ぼくはそう思ってるし、そうしてきた。

「愛しいひとにさよならを言う」石井睦美著(角川春樹事務所)

未婚のまま「わたし」を産み、絵画の修復をしながら育てた母。たまたま近所に住んでいて、家族同然に母娘の面倒をみたユキさん。そして母のかけがえのない友人で、苦しいときに手を差し伸べる建築家の穣さん。「いつか」という前向きな名前をもつ18歳の少女が、愛しいひととの出会いと別れを、みずみずしく語る。

「わたし」の世界は、決して広くない。生まれる前から父親は不在で、母が祖母と折り合いが悪く、実家とは疎遠のまま育った。いちばんの友達の彩音ちゃんは、著名音楽家の両親のもとで大人っぽく育ち、中学にあがるとピアニストを目指して遠くへ旅立った。
しかし「わたし」の幼い日々には温かさが満ちている。母の芸術的情熱と、ユキさんの飾り気ない愛情。だからたとえ孤独でも、つつましくても、決してひがんだりしない。少女の成長過程を丹念に描くことで、いったい何が感受性の強いひとりの女性をかたち作り、そして何が人間関係の辛さ、悲しみを乗り越えていく力となるのかが、じっくりと伝わってくる。

少し美しすぎる気もするけれど、ひょっとするとセンスのある生き方を目指す少女たちにとって、理想の姿といえるかもしれない。この透明感、著者が1957年生まれというのが驚きだ。(2014・1)

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January 19, 2014

海外ミステリーマストリード100

本書は文章だけに許された表現を用いた、「小説の中の小説」と言うにふさわしい作品だとも言える。お読みいただいた方には必ずや賛同していただけることと思う。この物語を別の表現形式で描くことは不可能だからである。

「海外ミステリーマストリード100」杉江松恋著(日経文芸文庫)

「翻訳ミステリー大賞シンジケート」などで知られる書評家のミステリーガイド。だいたいブックガイドというやつは、手持ちの本が1冊増えて、さらに読みたい本が大量に増えてしまうという、本好きにとっては危険極まりないジャンルだ。実は本書についても、事前にその危険性について重々警告を受けてはいたけど、思わず買ってしまって案の定、泥沼にはまった感じがしている。あ~、私が読んでいない面白い本がこんなにたくさんあるのに、時間が足りないぞ!

350ページと手ごろな分量に、情報がぎっしり。第1部では2013年時点で新刊が手に入るものに絞って、1929年の「毒入りチョコレート事件」から2010年「二流小説家」まで、原書刊行順に100冊を紹介。1作わずか3ページなのに、あらすじ、おもしろポイント、シリーズ作品などの解説に加えて、類書を数冊ずつ挙げている。さらに第2部では、第1部で涙を飲んで割愛した古典やら、新刊が手に入りにくい名作やらをリコメンド。著者の膨大な読書量には、恐れ入るしかない。

本格から探偵もの、冒険もの、伝奇などなど、ジャンルの議論に深入りせず、ミステリーというものの幅広さ、懐の深さを示している。そんな本書の姿勢には深く共感。個人的に、面白いエンタテインメントには、たいがいミステリーの要素があると雑駁に捉えているから。ただただ、面白本が好きで、おススメしたいという熱さ、歯切れの良さが心地よい。新文庫シリーズ創刊の1冊。(2014・1)

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January 11, 2014

謎の独立国家ソマリランド

 道の真ん中にドラム缶が四本立てられ、腰巻き姿の民兵が銃を持ってうろうろしている。
 これが「国境」だった。

「謎の独立国家ソマリランド」高野秀行著(本の雑誌社)

遠く「アフリカの角」に位置する紛争地帯ソマリアで、国連などに頼らずに内戦を終結させ、20年も平和と民主主義を維持している地域がある。国際的には認められていない自称「国家」ソマリランド。アニメ「ラピュタ」を思わせるけれど実在の「国」が、いったいどう実現したのか。早大探検部在籍中にデビューした筋金入りの冒険者による、面白すぎるノンフィクションを読んだ。

500ページもの分厚さなのに、軽妙なタッチですいすい読める。現地の情勢を知るには、氏族の対立関係を理解することが必須だけど、固有名詞を覚えるのは至難の業。そこで著者は氏族や指導者に源平、戦国武将の「あだ名」をつけて解説している。北部に住むのは「イサック奥州藤原氏」、旧ソマリア時代に栄華を極めたのは「ダロッド平氏」、平氏から都を奪い返したのが「ハウィエ源氏」といった具合で、実にわかりやすい。
しかもソマリア現代史は、あだ名がしっくり感じられるほどの群雄割拠ぶり。東部のプントランドでは海賊が跋扈し、南部ソマリアはイスラム原理主義勢力もからんで内戦状態が続く。残念ながら世に紛争地帯数多いとはいえ、改めてネットとグローバルの現代に存在する「リアル戦国」の事実が衝撃だ。

2009、2011年の2度にわたって現地にわたり、直接観て聴いてまわる著者の姿勢がたいそう刺激的。旅立ちの冒頭から、ソマリランド「独立の英雄」が意外に千葉に住んでいたり、到着して紹介された大統領スポークスマンについて、ダメもとと思いつつホテルのフロントで尋ねたらあっさり携帯電話番号を教えてくれたり、何がどうなっているのやら、もう驚きの連続。
しかもソマリ人はめっぽう気が短く、人の話を聞かず、カネにがめつい。著者は言葉を覚え、打ち解けるためカートの「葉っぱ」を齧りながら、およそ日本人の文化とは対極といえそうな遊牧民の間に、ずかずか入り込んでいく。

自費をつぎこみ、危険な目にもあいつつ苦労して取材しても、本が売れなければ水の泡だ。焦りとカート酔いのあまり、海賊取材のため自分で海賊船を仕立てることを思いつき、費用を「見積もり」してみるくだりなんか、最高に面白い。もちろん実行はしないんだけど、相談するとすいすい見積もりが出てきて、海賊の実態を理解しちゃう。そんなふうにして社会の基盤たる氏族の仕組み、争いを乗り越える「賠償の掟」の仕組み、いろんなことが明らかになっていく。

肝心の「地上のラピュタ」実現の謎については、ぜひ本書を読んでほしい。著者の立場は正直、かなりソマリランドの存続に肩入れしていると思う。とはいえソマリランドの存在が、欧米の大国や国際社会がいくら介入しても実現できないことがある平和と民主主義、あるいは国家の成り立ちというものを考えさせることは、間違いない。(2014・1)

 

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December 30, 2013

2013年まとめ

うーん、遊び過ぎて、例年にも増して全然読めない1年でした。反省。
というわけで、数少ない中からのチョイスですが、マイベスト10は下記の通り。
2012年までの話題本ばかりになっちゃって、周回遅れの印象強し。ノンフィクションも全然無いし。なんてこった。

1、「路」吉田修一
2、「祈りの幕が下りる時」東野圭吾
3、「永遠の0(ゼロ)」百田尚樹
4、「解錠師」スティーヴ・ハミルトン
5、「ソロモンの偽証」宮部みゆき
6、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」村上春樹
7、「百年法」山田宗樹
8、「舟を編む」三浦しをん
9、「清須会議」三谷幸喜
10、「翔ぶ梅 濱次お役者双六三ます目」田牧大和

読みたい本は、ネット書店のウイッシュリストに積みあがってるんですよ。
2014年はなんとか話題に追いつきたいもんです…



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December 08, 2013

祈りの幕が下りる時

 何かが靖代の頭に引っ掛かった。田島百合子が印象的な地名を口にしていたような気がする。やがて、その文字が浮かんできた。
「そうだ、日本橋……」

「祈りの幕が下りる時」東野圭吾著(講談社)

2013年ミステリーを代表する1作を、駆け込みで読んだ。感動必至の刑事加賀恭一郎シリーズ。10作目にしてついに、加賀はかつて自分をおいて失踪した母親の思いに迫ることになる。
いつもながら、ページを繰る手を止めさせない筆力はさすがだ。東野さんの名作「白夜行」を彷彿とさせる、哀しも壮絶な女の人生。380ページの長編だけど、大仰な表現は一切なく、丁寧な散文の積み重ねから、鮮やかにドラマが立ち上がる。

発端は小菅のアパートの一室で、40前後の女性が遺体で発見されたこと。さらに近くの新小岩の河川敷で、ひとりのホームレスが亡くなる。2つの事件の捜査線上に、ちょうど明治座で上演していた芝居の演出家、浅居博美が浮かぶ。博美は加賀の知り合いでもあった。博美の過去に、どんな秘密が潜んでいるのか、それは果たして加賀の過去とつながるのだろうか?

捜査のプロセスには、これまで博美とかかわった人物を中心に、数多くの証言者が登場する。多種多様な人生が交錯するので、筋運びはけっこう複雑だ。その過程で巧妙に読者をミスリードしておいて、大詰めで明かされる真相が衝撃となる。実に緻密なプロットです。
淡々とした筆致だけれど、道具立てには工夫が多い。たとえば謎解きのカギとして、加賀の本拠地・日本橋を中心とする橋めぐりのエピソードが出てくるのだけど、これがなんともいい江戸情緒だ。一方で、流浪の身である原発労働者の境遇に触れていて、鋭い社会性もはらむ。

登場人物のなかでとりわけ印象的なのは3人の女、博美、加賀の母、加賀の従兄・松宮脩平の母だろう。いずれも辛い思いを抱えながら、覚悟をきめて潔く生きる、名も無き女性だ。切ないなあ。
全体に重いトーンの物語のなかで、爽やかな存在感を放つ女性もいる。かつて加賀の父の看護にあたった金森登紀子だ。宿命の女性たちと、うまい対比になっている。加賀父子の真情をよく理解している役回りでもあり、これからのシリーズでも気になる人物になりそう。
肝心の加賀は、粘り強く真実を追い、鋭敏に人の心を感じとるという魅力的な造形が、一段とくっきりした印象だ。今作で日本橋周辺での活躍は一区切りとなる。松宮も着実に成長をみせた。この2人は阿部寛と溝端淳平のイメージがぴったりだなあ。映像化が楽しみかも。(2013・12)

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December 07, 2013

感染源

「あの村は消えたんだと。人が来なくなったので、先月、様子を見に若い者をやったら、人っ子一人いなかったそうだ」

「感染源」仙川環著(PHP文芸文庫)

直美は日本を飛び出し、マレーシアで新薬の原料になる植物などを探索、日本の医薬品メーカーに提供する仕事をしている。ある日、後輩の研究員が発病。それは自分が提供した原料に触れたことが原因なのか?

著者お得意の医療ミステリー。舞台はほとんどマレーシア、しかも医薬品やサプリの原料探しという見慣れない設定が興味をひく。主人公の直美は、いわばフリーのコンサルタントだ。地元ガイドとたった2人、苛酷なジャングルに分け入り、民間療法が盛んな奥地の村へ、効果がありそうな植物などを分けて貰いに赴く。実際、なんとかエキスとか天然由来成分とかって、こういう風に集められているのかな。

取引していた村の消失や知人の死といったミステリーの背後に、直美の成長談もある。大学での研究者生活で目標を見失い、ふらりと訪れたマレーシアでビジネスを思いつく。その行動力はたいしたものだが、事件に巻き込まれたのをきっかけに、異国の地でひとり糧を得ていく覚悟とか、周囲の人物たちとの信頼関係の築き方を問われることになる。こういう決してスーパーウーマンではないけれど、凛とした女性を描くのが巧い。今回、医薬原料を巡って話が文明論に広がるあたりは、やや消化不良かな、とも思ったけれど。ウェブ連載の文庫化。(2013・11)

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November 20, 2013

終わりの感覚

私たちは実に軽薄な思いこみによって生きている。たとえば、記憶とは出来事と時間の合計だ、とか。だが、何であれ、そんな簡単なことですむわけがない。

「終わりの感覚」ジュリアン・バーンズ著(新潮クレスト・ブックス)

2011年、4度目の候補でブッカー賞を得た中編小説。引退した主人公トニーのもとへ、思いがけない報せが届き、数十年ぶりに忘れていた記憶の蓋が開く。

トニーはロンドン郊外でひとり暮らしの初老の男。離婚した妻、娘と穏やかな交流を保ち、ボランティアなどをして日々を過ごしている。このまま静かに、平凡な人生が暮れていくはずだった。それなのに1通の手紙から、自らが遠い昔、親しい人に投げつけてしまった心ない言葉や、長きにわたって理解していなかった重大な事情に直面するはめになる。
時計は決して巻き戻せない。もう先が見えている、そんなタイミングで、押し寄せる鋭い悔恨。なかなか残酷な物語だ。

大学時代の恋人ベロニカはトニーと別れた後、よりによってトニーの親友エイドリアンと付き合い始め、トニーは少なからず傷ついた。しかし頭脳明晰、前途有望のはずのエイドリアンは、若くして自ら命を絶ってしまう。それからほぼ四十年。亡くなったベロニカの母親が、トニーにエイドリアンの日記を遺したという。母親はなぜその日記を持っていて、しかもトニーに託したのか。ベロニカはなぜ日記の引き渡しを拒むのか。そもそもエイドリアンの死の真相は…。

全編トニーの独白。気恥ずかしい青春の思い出や、歴史を巡る考察などでユーモラスに彩りつつ、主観的な語りによって巧妙に記憶のズレを仕掛けていく。そして待ちかまえるどんでん返し。精緻だけれど、その巧さよりも、人生の苦さが胸に残る。土屋政雄訳。(2013・11)

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