July 09, 2009

「差別と日本人」

差別は、古い制度が残っているからあるのではない。

「差別と日本人」野中広務、辛淑玉著(角川oneテーマ21) ISBN: 9784047101937

対談だけれど、どちらかというと辛さんが野中さんに詰め寄っていく感じ。あの事件が勃発したとき、野中という政治家はどう感じたのか、はたまた、あの問題が国会で取り上げられているとき、どう決断したのか。そして一つひとつの事件、政治課題について辛さんが解説を加えていく。

野中さんはたぶん、そう簡単に舞台裏を明かしてはいない。長く保守政治家として生きて、「落としどころ」を探り「ことを収める」技術の、ある意味で最高峰を極めた人といえるだろう。それでもできる限り、真摯に答えようとしている感じはある。

知らないこと、気づかないことが沢山ある。それはある面、致し方ない。けれどやっぱり、ややこしいからと言って知らずにいること、気づかずにいることは罪。そう思えるかどうかが第一歩だという気がする。この対談の終盤はきっと涙なくしては読めない。だが、泣いている場合はない。(2009・7)

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July 04, 2009

「ミレニアム2 火と戯れる女」

多くの人々の考えとは裏腹に、リスベットは真に道徳的な人間だとパルムグレンは確信していた。問題は、彼女なりのモラルが、法律で定められているモラルとは必ずしも一致しないということだ。

「ミレニアム2」スティーグ・ラーソン著(早川書房) ISBN: 9784152090195 ISBN: 9784152090201

人身売買の実態を告発しようとしていた月刊誌「ミレニアム」を悲劇が襲う。そして明らかになっていく、女性調査員リスベットの驚くべき過去。

大評判ミステリ3部作の第2部上下巻は、期待を上回る面白さ! 第1部はエンタメ要素がてんこ盛りだった。それはそれで面白かったけど、今回はリスベットの危機と背景にある陰謀に的を絞っていて、スケールの大きいサスペンスとアクションがぐいぐい加速していく。特に、黒幕らしき謎の人物ザラの不気味さが、映画に出てくるカイザー・ソゼを彷彿とさせ効果的。

第1部に増して、誇り高い野獣リスベットの魅力が異彩を放つ。導入部で、第1部の事件のあと、不器用ながら自分の手で人生を再構築しようとするリスベットの姿が丹念に描かれる。ちょっとかったるいかなあ、とも思うんだけど、この描写が終盤になって、とても切なく感動的なシーンにつながるところが、うまい。
ミレニアムの発行責任者、ミカエルは相変わらず頭に来るほど女たらし。これが北欧感覚なのかな。だけど、ミカエルを含むリスベットを取り巻く数少ない理解者たちの、人の心の真実を信じる気持ちが強靱に物語を支えている。小ネタでは、リスベットが愛してやまない数学のエピソードがお洒落だ。

やっぱり登場人物の名前はあんまり覚えられないし、地名も飛ばし読みしちゃうし、キルビルまがいの、かなり荒唐無稽な展開もありますが、もう面白いから許す。リスベットゆかりで、まだ消息のわからない人物がいるから、第3部はそのへんが明らかになるのかな。楽しみー。ヘレンマルメ美穂・山田美明訳。(2009・7)

「ミレニアム2火と戯れる女<上><下>」 マイペース魔女の読書日記

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June 24, 2009

「おそろし」

 わたしは、人の心というものがわからなくなってしまいました。人というものが、闇雲に恐ろしくなってしまいました。そう言って、おちかはようやく口を閉じた。
 しゃべってしまって、気が済んだ。一方で、自分で自分に驚いていた。あたしはなぜ、こんなことを打ち明けてしまうのだろう。

「おそろし」宮部みゆき著(角川書店) ISBN: 9784048738590

川崎宿の旅籠の娘、おちか17歳は事情があって、叔父夫婦がいとなむ神田三島町の袋物屋、三島屋に身を寄せている。そこでひょんなことから、市井の怪談話の聞き役となる。

正調・宮部節の時代小説を読んだ。可憐で健気なおちかを主人公に、まがまがしい運命に翻弄される庶民の心を、いつもながら丁寧に描いていて引き込まれる。様々な事件で命を落とし、この世に思いを残した人。後に残されて深い後悔に苛まれ、心を閉ざした人。ときに壮絶で哀切なテーマは、著者の現代ミステリーともつながっている。

そんな悲しい目にあった人々が、「変調百物語」と銘打った「語る」「聞く」という行為を通じて、苦しみながらも再生への糸口をつかんでいく趣向も、現代に通じる感じで興味深い。希望を感じさせるラストが爽やかだ。小泉英里砂さんのイラストもチャーミング。09年1月から新聞でシリーズ第2作を連載。(2009・6)

 『おそろし』宮部みゆき 明日は晴れるかな♪

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June 21, 2009

「地団駄は島根で踏め」

言葉の語源が、ある特定の土地と結びついているケースは、探すと意外にあるものだ。

「地団駄は島根で踏め」わぐりたかし著(光文社新書) ISBN: 9784334034986

「語源ハンター」を自称する著者が辞書をひもとき、語源に登場する土地に足を運んで、ゆかりの事物を観て歩く。

目次の日本地図を眺めただけでわくわくしてくる。「ごたごた」の神奈川県って何だろう、「らちがあかない」の京都府って? 読んでみると実際、期待に違わぬ面白さだ。

語源の蘊蓄は満載。とはいえ著者は放送作家とあって、学術的な「日本語本」というより、好奇心満載の軽妙な旅行記になっている。語源の「現場」で古来の祭りやら、歴史上の人物にまつわる事物やらに触れるうち、普段なにげなく使っている言葉の背景に、著者なりに思いをはせていく。そんな語源ハンティングのかたわら、お約束でちゃっかり土地土地の銘菓、美味しいものを食べてしまうところも、とても楽しい。(2009・6)

地団駄は島根で踏め:語源は意外なところに はてさてブックログ

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June 17, 2009

「1Q84」

でも見かけにだまされないように。現実というのは常にひとつきりです

「1Q84」村上春樹著(新潮社) ISBN: 9784103534228 ISBN: 9784103534235

近未来ならぬ近過去「1984年」を舞台にした、予備校教師で作家の卵である天吾とスポーツインストラクター青豆、ともに30歳の男女の物語。

著者7年ぶり書き下ろし長編にして、大ヒット中の小説を読む。一つひとつのシーンの説明が丁寧で、饒舌。だから4月から9月までの物語でbook1、book2合計1000ページを超える長編となっているが、全然長く感じない。短い章を重ねて、同時進行する主人公二人の1Q84年を交互に語っていくリズムが心地よい。

もっとも描かれる出来事は決して、心地いいものではない。ねじれた信念やら、弱いものに対する暴力やらの描写が容赦なくて、ちょっとしつこく思えるほど。ああ、この著者はこういう感じだったなあ、と思い出す。でも、二人の身にふりかかっていることが気になって仕方ないから、どんどん読み進んでしまう。

青豆と天吾の造形には、そんな風に読む者を物語世界に巻き込む、強い引力がある。特に青豆。へんてこな名字と、フェイ・ダナウェイみたいと描写されるきっぱりとした格好良さが秀逸だ。二人はそれぞれ心に傷を抱え、情熱を秘めながらも、できるだけつつましく日常を送ってきた。それなのにある日、自分の周囲の世界が何やら決定的に、見慣れた現実とはズレてしまっていることに気づく。いったい何が起こっているのか。ちっぽけな個人が、このヘビーな運命に抗うことは難しい。ズレてしまう前の世界に戻ることも、どうも不可能そうだ。けれど、決して目をそらすまい、と思う。そんな二人の軌跡が運命的に交差する場面の、息を呑む静謐さ。

例によって全編に、さまざまなミステリーが散りばめられた。「リトル・ピープル」とか、「空気さなぎ」とか…。その謎解きは、読む人、読むタイミングによって、いかようにも変化しそうな気がする。自分の中でもこれから、物語が変化していくのが楽しみだ。(2009・6)

1Q84 BOOK 1、 1Q84 BOOK 2  【村上春樹】 とんみんくんの読書履歴
村上春樹『1Q84』 「石板!」

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June 06, 2009

「介護現場は、なぜ辛いのか」

きっと、介護現場には、注がれる「愛」が足りない。入居者ばかりでなく、介護士に対してもーー

「介護現場は、なぜ辛いのか」本岡類著(新潮社) ISBN: 9784104083046

元雑誌編集者で作家の著者は、実家の母が倒れたのをきっかけにヘルパー資格を取得。特別養護老人ホームで週2日の非常勤職員として働き始める。50代の新人おじさんヘルパー体験記。

仕事としての介護について、様々な問題点を指摘している。入居待ちが300人もいるほどニーズがあるのに、予算も人手も足りない施設。職員は不規則な勤務でかなり体力が必要なうえ、様々な事故のリスクなどと向き合わなければならず、心身ともに負荷が高い。しかしその処遇といえば、募集広告によれば正職員月18万円、パートの時給850円。仕事の実態に、全然釣り合っていない。技術と経験が求められる専門職としての、処遇の体系も未整備だ。現場には時として、余裕の乏しさから来る非効率や、士気の低下がはびこる。

ヘビーな内容なのだが、意外に読み心地は暗くない。著者がお年寄りたち、そして最前線の介護職員たちに対して、一貫して温かい視線を向けているからだろう。登場する認知症のお年寄りの言動は奇想天外だけど、どこかしたたかでチャーミング。不器用な著者を怒ってばかりいる上司も、尊敬すべきプロだ。誰もが当事者になりうる介護について、前向きな気持ちで考えるきっかけになりそうな一冊。(2009・6)

介護現場は、なぜ辛いのか--特養老人ホームの終わらない日常/本岡類 しょ~とのほそボソッ…日記…  

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June 04, 2009

「ガリレオの苦悩」

犯人が魔法を使っているのでないかぎり、必ずどこかに痕跡が残っているはずだ。そして魔法なんてものは、この世には存在しない

「ガリレオの苦悩」東野圭吾著(文藝春秋) ISBN: 9784163276205

気鋭の物理学者、湯川が事件の謎を解く、人気のガリレオシリーズの短編集。

ずっと積んでいて、ようやく読んだ。相変わらずの物語巧者ぶり。読んでみたら、先にドラマで見てしまって結末が分かっているストーリーもあったけれど、さほどがっかりしないで、すらすらと楽しんだ。

湯川がますます格好良い。もしかしたら読む側に、福山雅治のイメージが刷り込まれてしまったせいか。特に「攪乱す」。筋違いの怨みを抱いて挑戦してくる犯人に対峙し、クールを装いながらも一歩もひかず、科学者の誇りをのぞかせる。格好良くなった分、ちょっと変人っぽさは後退した感じかも。(2009・6)

ガリレオの苦悩 Yuhiの読書日記+α
『ガリレオの苦悩』 【徒然なるままに…】
東野圭吾  ガリレオの苦悩  マロンカフェ

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May 31, 2009

「日の名残り」

執事が、執事としての役割を離れてよい状況はただ一つ、自分が完全に一人でいるときしかありえません。

「日の名残り」カズオ・イシグロ著(ハヤカワepi文庫)  ISBN: 9784151200038

1956年7月。英国オックスフォードシャーの館で執事を務めるスティーブンスは、主人のすすめで短い一人旅に出る。わずか6日間の旅路で胸に去来する、過ぎ去った栄光の日々と、悔恨。

今さらだけど、文句なしの名作。つくりものなのに、何故こんなにもリアルに、主人公の名状しがたい感情を味わうことができるのだろう!

親子二代にわたって、もてる時間のすべてをかたむけ、高潔な執事のあり方を追求してきた主人公。一人称の丁寧な語りがまず、物語全体の読み心地をこのうえなく端正にしている。南西部へのドライブの道すがら、スティーブンスが目にする美しい田園風景が英国の品格を、さらには回想のなかで繰り広げられる、大戦前夜の緊迫した外交の裏舞台が、伝統に支えられた執事というプロの強い矜持を、鮮やかに描き出す。

けれど、読む者は知っている。どんな価値観も時の流れにさらされ、いずれは移り変わっていく。永遠に揺るがないものなんて、きっと何もない。そのことに気づいたとき、人は苦くて残酷な問いに向き合うのだ。生きる意味とは何か。二度と後戻りできない、人生の意味とは何なのか。

世の中のたいがいの人は、一流の才能とか、疑う余地のない歴史的な使命とかとは縁がない。努力して目の前の義務を果たして、無名のまま生きていくだけだ。そのことを引き受けて、たどり着いた港町で静かに眺める夕暮れの、なんと切なく、美しいことか。全編に散りばめられた控えめなユーモアが、決して折れない精神のタフさを感じさせてじつに爽快だ。ブッカー賞受賞。土屋政雄訳。SNS「やっぱり本を読む人々。」100冊文庫の1冊。(2009・5)

『日の名残り』 カズオ・イシグロ  (ハヤカワepi文庫) 《四季さんオススメ》 続活字中毒日記
『日の名残り』 カズオ・イシグロ Roko’s Favorite Things

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May 22, 2009

「レッドゾーン」

弱肉強食の世界の中で、我々が身につけなければならないのは、生き抜くための智恵と勇気です。したがって市場に正邪はなく、勝者も敗者もいない。生者と死者がいるのみです

「レッドゾーン」真山仁著(講談社) ISBN: 9784062154338 ISBN: 9784062154345

日本を代表する自動車メーカーに、赤いハゲタカが襲いかかる。前代未聞の事態を前に、伝説の投資ファンド総帥、鷲津が仕掛ける、誇りと希望と、生き残りをかけた闘い。

ヒットドラマ「ハゲタカ」原作のシリーズを一気読み。場面転換が非常に頻繁なので、ちょっと戸惑うこともあるし、いろいろな要素が最終的にぴったり収まっているかというと、異論があるかもしれない。東大阪はどうなったの、とか、若い女性弁護士はこういうことなの、とか。けれど、そんなことがさして気にならないほど、なにやら熱い思いが伝わってくる小説だ。それぞれに懸命に責任を果たし、組織を率い、信じる価値を守っていく男たち。しびれます。

荒唐無稽の発想のはずが、瞬く間に現実が追いついてきてしまう。そういうデッドヒートは、経済小説の宿命だと思う。だからといって、現実に向き合うことをやめはしない。百年に一度の大波だとかハーフエコノミーだとか、何が起こるか分からないという今を思い知らされているからこそ、揺るがないところに立ち返りたいのだから。2009年6月に映画化。(2009・5)

「レッドゾーン」真山仁著 講談社 カズハル@インクコム

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May 16, 2009

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」

それに、いったん始めたことを途中でやめるのは気にくわない。”秘密は誰にでもある。問題はどんな秘密を見つけだすかだ”

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」スティーグ・ラーソン著(早川書房) ISBN: 9784152089830  ISBN: 9784152089847

ジャーナリストのミカエルは不正を追及した実業家、ヴェンネルストレムに名誉毀損で逆襲されて有罪となり、活動の休止を余儀なくされる。そんなとき、引退した大物オーナー経営者、ヘンリック・ヴァンゲルから依頼が舞い込み、40年も前にヴァンゲル家で起きた、ある少女失踪事件を洗い直すことになる。

大評判のミステリー3部作の、第1部上下巻を読んだ。多くの本好きの絶賛どおり、孤島からの失踪、暗号、猟奇殺人から世界を股に掛けたハイテク捜査まで、あらゆるミステリーの要素がてんこ盛りで、しかもその要素が巧妙に組み合わされた一大娯楽作だ。

巻頭に地図が添えられているせいか、自分には馴染みがないスウェーデンが舞台ということは、あまり苦にならなかった。途中からヴァンゲル一族の人物がぞろぞろ登場して、誰が誰だか混乱したけれど、それも220ページあたりまで。凄腕女性調査員のリスベットがミカエルに絡んでくると、もう止まりません。

本筋ではないはずのリスベットの破天荒な人物像が、際立って鮮烈だ。やせっぽちの体にタトゥーやピアス、粗野な言動で社会に全く適応しないけれど、ものすごく頭が切れて、人が一番隠したいと思っている秘密に手段を選ばず迫っていく。特に卑劣な暴力に対しては、決して容赦しない。こんな探偵役、みたことない。

ストーリーの柱は二つある。ミカエルの実業家ヴェンネルストレムに対する闘いと、ヴェンゲル一族の犬神家ばりに胡散臭い過去。それぞれの謎解きが面白いのはもちろんだが、謎解きの過程でミカエルとリスベットが世の不正に対して示す怒りが、強い印象を残す。単に痛快というだけでない。自らもジャーナリストである著者のプライド、信念がエンターテインメントに独特の味付けを施している。

訳文も読みやすいと思う。著者がすでに他界しているのがとても残念だけど、第2部、第3部を読むのは楽しみだ。ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳。(2009・5)

◎◎「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」上下 スティーグ・ラーソン 早川 1700円 2008/12  「本のことども」by聖月

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«「スーパーの裏側」