国宝
イケメン吉沢亮、横浜流星による、本気の歌舞伎舞踊が話題の大作を満喫。李相日(イ・サンイル)監督はドロドロ人間ドラマの吉田修一の原作を刈り込み、女形という異形の業を、舞台シーンに凝縮させて見事だ。昭和の造形も丁寧で、3時間の長尺を飽きさせず、観終わって語りたくなる知人が続出。古典芸能だってやればできる。
脚本は奥寺佐渡子、撮影はチュニジア出身のソフィアン・エル・ファニ、音楽は「正三角関係」などの原摩利彦。遅い時間だけどいっぱいのシネコンで。
任侠の跡取り・喜久雄(吉沢)が上方歌舞伎の花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、悪魔に魂を売り渡して厳しい女形の道を歩んでいく。華やかな襲名の高みから不遇、ドサ回りへの転落、御曹司・俊介(横浜)との兄弟のような友情と確執、幼なじみ・春江(高畑充希)や愛人・藤駒(見上愛)、駆け落ちする彰子(森七菜)との愛憎。すべてを哀しく激しい芸へと昇華させる。玉三郎を思わせる孤高の半生。
物語のカギとなる演目が、鴈治郎さん指導の「曽根崎心中」というのが憎い。1953年に扇雀(藤十郎)が大ヒットさせた足のシーンの切なさ、心中へと駆けていく若い2人の必死さ、愚かさ。そして万菊が幻視し、ラストを飾る「藤娘」がまた感動的。舞台を覆い尽くす激しい雪と音楽の美。
物語前半には喜久雄・俊介の抜擢シーンで、玉三郎・七之助が2014年に初演した「二人藤娘」、喜久雄がついに表舞台に復帰するシーンでは、玉三郎・菊之助(現菊五郎)で知られる「二人道成寺」もたっぷりと。舞台裏の緊迫と、奈落からせり上がるとき、役者だけが目にする一転、夢のような舞台の光景が鮮やかだ。
主演コンビのほか、歌右衛門もかくやという大物・万菊を演じた田中泯が圧巻。今際の際のすがすがしいまでの孤独と、俳優の業がみなぎる眼力! そして冒頭の抗争シーンでは、永瀬正敏が一瞬の熱演。この降りしきる雪が、ラスト「藤娘」につながる「景色」なのか。少年時代の喜久雄を演じた「怪物」の黒川想矢にも、雰囲気があってさすが。
ちなみに舞台挨拶で母・寺島しのぶが、まさに菊五郎襲名のタイミングだけに、御曹司をさしおく襲名なんて「ありえません!」と力説していたのが怖かった… 渡辺謙、存在感あるけどちょっと女形には見えなかったかな。
劇場ロケで京都・先斗町歌舞練場や上七軒歌舞練場、豊岡の出石永楽館などが登場。展望が見えない休館中・国立劇場の楽屋口が切ない。
制作のクレデウスは元WOWOWのプロデューサー、松橋真三が設立。ソニーグループ、アニプレックス傘下のミリアゴンスタジオが製作幹事で、企画の村田千恵子が所属しており、大作「キングダム」のチームなんですね。制作委員会はほかに吉沢のアミューズ、配給の東宝、チケットのローソン。松竹、出る幕無しかあ…
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