蜂蜜と遠雷

映像表現が美しく、心洗われる音楽映画の佳作。不思議ちゃん風間塵を演じた鈴鹿央士がみずみずしい。国際コンクールで競い合うピアニストたちの群像、若者の葛藤と成長を描いた恩田陸の直木賞・本屋大賞ダブル受賞作を映画化。監督・脚本はドキュメンタリー出身の石川慶。

ライバルである松岡茉優、森崎ウィン、臼田あさ美、松坂桃李らが、ひととき息抜きする砂丘。ケンケンパがいつも間にかモーツァルトになっちゃうシーンの解放感が素晴らしい。世界のすべてが音楽に聴こえている、そんな天才っているんだろうなあ。ロケ地は南房総だそうです。終盤、降りしきる雨のなかから、表現したい気持ちがわき上がっていくところも素敵。

プロコフィエフ等々、映画化最大の難関だったろうピアノ表現は、メーンキャストそれぞれにピアニストを起用する豪華さだ。ドイツ在住の河村尚子(松岡)、福間洸太朗(臼田)、金子三勇士(森崎)、藤田真央(鈴鹿)といずれも日本を代表する若手だとか。課題曲「春と修羅」は、藤倉大が4人に異なるカデンツァ(即興的部分)も作曲!

クールな審査員長の斉藤由貴と、「わかってそう」なクロークの女性、片桐はいりがいい味だ。設定のモデルは3年に1度の浜松国際ピアノコンクールだそうです。

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博士と狂人

大英帝国を象徴するオックスフォード英語大辞典(OED)の初期編者が、実は博士号をもたない異端の言語学者と、殺人犯だったという「スキャンダル」を描いた重厚なドラマ。ショーン・ペンの狂気の演技が真に迫りすぎて、どうにも暗いんだけど、丁寧なつくり。P・B・シャムラン監督。録画で。

帝国最盛期の19世紀後半。世界各地の「公用語」の権威たる辞書編纂という一大プロジェクトがスタート、前任の急逝で責任者に起用されたジェームズ・マレー(メル・ギブソン)は古今の語彙を集めるため、一般から投稿を募る。大量の原稿を送ってくる頼もしい協力者ウィリアム・マイナー(ペン)は米国の軍医で、なんと南北戦争で精神を病み、妄想から殺人を犯して精神科施設に収監中だった。

マレーもマイナーも言語に魅入られた偏執狂であり、「art」1語から、知的で無二の友情が芽生えていく。マイナーが40年も閉じ込められた、暗く殺伐とした施設。その壁一面を覆う、白い単語のメモが美しい。マイナーが被害者の妻(ナタリー・ドーマー)に、読み書きという知識によって報いようとする思いは崇高だし、マレーが献身的な仕事ぶりで、もったいぶった学者たちを見返す痛快さもある。
しかし後半、マイナーが激しい自責の念と、野蛮な治療によって追い込まれてしまうさまは悲惨で、目を背けたくなる。世界最大の辞書の皮肉な出自。植民地だったダブリンのトリニティ・カレッジがロケ地に選ばれているのも感慨深い。

 

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フォードvsフェラーリ

新参者フォード(GT40)が王者フェラーリに挑んだ、1966年ル・マン24時間耐久レースの実話をアレンジ。高速レースシーンが今にもクラシュしそうで、特に雨の夜のシーンとか、ハラハラドキドキだ。
車好き「男の子」たちの子供っぽさと、勝負に負けても心はチャンピオンだ!というテーマが、一貫してベタながら、あっけらかんと爽やか。「ナイト&デイ」「ローガン」のジェームズ・マンゴールド監督。録画で。

乱暴だけど才能あるレーサー、ケン・マイルズを演じる怪優クリスチャン・ベールがいい。デイトナの祝勝会に照れながら参加するシーンとか、クセがあって不器用で。その夫を励ますため、何故か無茶な運転をしちゃう妻のカトリーナ・バルフがチャーミングだし、一人前に「ブレーキ」とか指摘する息子も可愛い。
重役の口出しと闘うカーデザイナー、キャロル・シェルビーのマット・デイモンは安定の演技。ケンと殴り合って心が通じ合うとか、レース中にフェラーリチームを混乱させようとちっちゃい悪戯をするとか、嫌いじゃないな。
レース界の大人の事情もテンポよく展開。ベビーブーマー向けイメージ戦略を画策するアイアコッカは、イメージ通りしたたかな造形。ヘンリー・フォード2世がフェラーリに買収を袖にされ(イタリアのプライドと対フィアット交渉術ですね)、また偉大な祖父へのコンプレックスから参戦を決断するあたり、権力者って感じです。テストコースでキャロルに同乗させられて、あまりのスピードに、いい年してビー泣きしちゃうところが可笑しかったな。

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引っ越し大名!

江戸前期、生涯7回もの国替えをさせられた実在の大名・松平直矩(及川光博)。姫路から日田へ、しかも減封の苦境で、引っ越し差配を命じられたのはコミュ障で「かたつむり」と呼ばれた書庫番・片桐春之介(星野源)。しかし彼には最強の武器、有り余る知恵と無私の心があった… 原作・脚本は土橋章宏原、監督は犬童一心。録画で。

理不尽な苦境を打開していく群像は、ひたすら爽やかで元気が出る。まず冒頭のタイトルが松竹!時代劇!で嬉しい。
頼りなさげな星野源はもちろん、周囲のキャラとキャストが絶妙のはまり具合だ。前任引っ越し奉行の娘・於蘭(高畑充希)が凛として切なく、お調子者の御刀番・鷹村源右衛門(高橋一生)の天下三槍「御手杵」遣いが格好良く、勘定頭・中西監物(濱田岳)が健気で、取り残されて農民となる山里一郎太(小澤征悦)に大人の哀愁がある。

ほかに家老・松重豊、留守居役・山内圭哉、母・富田靖子、廻船問屋・岡山天音、リストラされる藩士に飯尾和樹、ピエール瀧ら。そして敵役には次席家老・西村まさ彦、皿が大事な勘定奉行・正名僕蔵、渋い隠密・和田聰宏と豪華です。
劇中を彩る「引っ越し唄」シーンの振付・監修はまさかの野村萬斎で、まるでミュージカル。ラストの主題歌、ユニコーンの「でんでん」まで、染みます。

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新聞記者

日本アカデミー賞最優秀作品賞を録画で。モリカケ事件など、ともすれば戯画的になりそうな安倍政権時の疑惑を素材にしつつ、抑えたタッチで上手なエンタメになっている。メディアは決して裁く者ではないけれども、関心を喚起するという重要な役割をもっている、と思わせる。
原案は官房長官記者会見の質問などで知られる望月衣塑子、脚本は2020年の翻訳劇「All My Sons」が良かった詩森ろばら、監督は藤井道人。

記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は大学設立を巡る告発ファクスを調査。告発者と目される外務省出身の官僚(高橋和也)は自殺してしまうが、その部下だった内調官僚(松坂桃李)から情報提供を受け、政府の思惑をスクープする…
政治的なしがらみがないという理由でキャスティングされた、という主演の韓国女優、シムが絶妙の表情で意思の強さを表現。父の誤報と死を引き合いに圧力をかける電話に対し、「わざわざ有難うございました」と答えるシーンが胸に迫る。外国育ちという設定でたどたどしい日本語が、もどかしさや人間らしい混乱を漂わせていい。
悩む松坂、その妻の明るい本田翼、後悔を抱える高橋の妻・西田尚美に雰囲気があり、吉岡の冷静な上司・北村有起哉や同僚の岡山天音もいい味。そして一貫して強大な敵として立ちはだかる、内調ボスの田中哲司が安定。
揺れるカメラアングルとか、黙々とPCに向かって情報操作にいそしむ内調が、終始怪しい青い照明なのは、若干鼻につくかな。ちなみに鍵になるDugway sheep incidentは1968年、ユタ州で起きた事件だそうです。

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ジョーカー

稀代のヴィラン(悪党)ジョーカーは、いかにして生まれたか。評判通り全編、主演のホアキン・フェニックスが怪演しまくる。壊れた笑い、3カ月で20キロ減量したという痛々しい体躯での、ゆっくりとしたダンスが生み出す陶酔… 圧倒的で過激な負のエネルギーが、とにかく重い。重いんだけど、目を離せない。凄い俳優だ。

残虐性だけでなく、不適合と孤独、妄想、次第に突きつけられる幼少時の悲惨な体験など、ジョーカーを形作る要素はどれも現実にあることだ。なんとか希望をもとうともがくたび、拒絶に遭う。アメコミのキャラクターを超え、隣にいてもおかしくない「人間」と気付かされて、ぞっとする。

終盤、デニーロ演じる大物テレビ司会者の末路は、豊かな者の「良識」の虚しさを象徴。そして忘れられた者たちの怒りが吹き荒れる。トランプ現象末期を知った今、なおさら切実なシーンだ。
ラストにバッドマン誕生を示唆するものの、これからの長い闘いを思わせるだけで救いはない。つくづく、こんな暗い映画、よく作ったなあ。でもスピーディーで説得力がある。実際、反社会性を糾弾されつつもヒットし、ヴェネチア映画祭金獅子賞、ホアキンはアカデミー賞主演男優賞を獲得した。監督は「アリー」のトッド・フィリップス。

「タクシードライバー」を彷彿とさせる雰囲気と、デニーロがさすがの貫禄を見せるのが、映画好きにとってはご馳走ですね。録画で。

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パラサイト 半地下の家族 モノクロVer.

ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ主演、アジア映画初のアカデミー作品賞作&韓国映画初パルムドール作をモノクロバージョンで。ブラックコメディ・スリラー、って紹介だけど、ホント、あらゆる映画的楽しみがぎゅっと詰まってて、高評価がうなづけた。録画で。

前半はテンポの良いスティング。半地下に住む全員プーのキム一家が、息子(チェ・ウシク)、娘(パク・ソダム)の策略により、あれよあれよと父(ガンホ)、母(チャン・ヘジン)まで、IT長者パク夫妻(イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン)の豪邸に職を得る。留守の間に上がりこんで、嵐の庭を眺めながら、酒盛りに羽目を外すまでは痛快だ。
そこへ追い出した家政婦(イ・ジョンウン)が訪れ、なんと豪邸の地下に夫(パク・ミョンホン)も隠れ住んでいたとわかると、事態は一転ホラーに。互いの生き残りをかけた壮絶な乱闘、その後の脱出劇はアクション満載だ。なんとか半地下の自宅にたどり着くと、豪雨で下水が氾濫。胸まで迫る浸水シーンのスペクタクル、高台から押し寄せる水の暴力の圧倒的な残酷さ、絶望感。翌朝は台風一過、何も知らないパク夫妻は晴れ晴れと、ガーデンパーティの準備にキム一家を呼び出しちゃう。避難所で雑魚寝との、なんという境遇の落差か。「地下派」の暗い情念がついに爆発し、パーティーはタランティーノばりの大惨事に…

カラー版をみてないのだけど、モノクロだから終盤の血糊のエグさは控えめで、むしろ光の表現が際立つ印象。息子が初めて高台の高級住宅街を訪れるシーンや、広々した豪邸のリビングに踊る陽光が素晴らしい。
もちろん俯瞰を多用した、振れ幅の大きいカメラワークにも引き込まれる。高低差が端的に表す貧富がリアルで、目が離せない。

貧しいなりに、したたかに生き抜いていたガンホやチェ・ウシクが後半、どんどん表情が暗くなっていくのがシリアスだ。能天気で騙されやすい妻チョ・ヨジョンは、戸田恵梨香似でチャーミング。お嬢様のチョン・ジソも目が大きくて可愛い。それにしてもつくづく、知らないってことは罪深いです。
たまたま「天気の子」と続けて観たので、水の位置づけの差は面白かったな。怒りと諦念と、と思っちゃうのは、ステロタイプかもしれないけど。

追記:後日、カラー・吹き替え版も録画で。ラストのファンタジーの切なさが、より胸に迫る印象。凄い映画です。

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天気の子

アニメ続きですが、新海誠監督・脚本のヒット作を録画で。
主役はとにかく、降って降って降り続ける雨だ。全編を通して、画面を埋める水の表現が素晴らしい。ツブツブの躍動とはかなさ、ドカ降りの暴力性、ひたひたと押し寄せ、覆い尽くす存在感。アジア感覚なのかなあ。
もちろん水を引き立てる、いつもながら精緻このうえない雑雑した風景、廃ビルだの室外機だのが涙モノです。

ストーリーは相変わらず、なんだか深い。大都会東京で、家族が欠落した少年少女が、周囲への気遣いよりも、力強く生き抜くことを選択する。
前半はコミカルな成長物語で、家出少年・穂高(醍醐虎汰朗)が須賀(小栗旬)と夏美(本田翼)の弱小編集プロに潜り込み、怪しいオカルト取材に走り回りながら、「晴れ女」陽菜(森七菜)とのバイトで恋を育む。ほのぼのしていて、モテモテの弟・凪(吉柳咲良)のキャラが秀逸。
しかし後半、警察に追われて始めてからはがらりと様相を変え、スケールの大きい疾走と、積乱雲を突き抜ける飛翔、エモーショナルなRADWINPSのメロディーにのみ込まれる。
ヘラヘラしていた須賀が思わず流す涙、そして何故か窓を開けて、オフィスを水浸しにしちゃうシーンに不意をつかれる。指輪とか、いろいろ背景を解釈できるんだろうけど、ここはもう「会いたい」という思いの切実さに感動。「大人になる」って、そういうことでありたい。

「君の名は。」のキャラ(神木隆之介、上白石萌音、成田凌ら)も登場。キーになる気象神社の架空の天井画は、山本二三だそうです。「ラピュタ」など美術監督の草分けで、「二三雲」というネーミングがあるとか。ははあ。

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アルキメデスの大戦

「ドラゴン桜」の(といってもよく知らないけど)三田紀房のコミックを、ご存知「永遠の0」の山崎貴の監督・脚本で実写化。1933(昭和8)年の軍艦建造計画をめぐり、架空の若き数学者の活躍を描く…のだけど、プラモデルおたく渾身の戦艦大和再現映画という趣。

東京帝大を放校になった櫂(架空の人物、菅田将暉)を、航空母艦建造を主張する山本五十六(舘ひろし)が海軍にスカウト。対立する設計者・平山忠道(モデルは平賀譲、田中泯)の巨大戦艦案を潰すため、安過ぎる建造費の嘘を計算力で暴けと依頼する。
櫂はありがちな空気を読まない天才キャラ。目にするもの何でも巻尺で計測し、たちどころに方程式にしてしまう。プリンストン留学直前に、山本に巨大戦艦は過信につながり、開戦を招いてしまうと口説かれ、数学で日本を救おうと承諾する。部下(柄本佑)、恋人(浜辺美波)と驚異のスピードで戦艦設計を会得するあたりは格好いいものの、海軍に雇われたくせに、軍紀の壁とやらでコストのデータが入手できず、大阪の中堅造船社長(鶴瓶さん)に泣きつく。このへんが腰砕かな。ついに鉄鋼使用量から建造費を割り出す方程式を発見、移動中から会議の席まで計算し続けて、算出に成功。政治力で押し切られそうになるが間一髪、初めて目にした平山案の欠陥を鋭く指摘して見事、使命を果たす。

ここまでは痛快なんだけど、どんでん返しが待っている。山本の狙いは開戦阻止ではなく、開戦を免れないうえはパールハーバー空爆による短期決戦、そのための空母案だった、という種明かしの後、さらに、負けを認めた平山に壮絶な覚悟を聞かされて櫂は…という、まさかの展開。
ここで冒頭、1945年4月沖縄特攻作戦での戦艦大和の無残な撃沈シーンが生きてくる。大和が二千人以上を犠牲にした一方、米軍は機動的な航空機を駆使し、パラシュートで海面に浮かぶ兵士も救っちゃう。この違い、頭のいい人たちは何をしていたのか。苦いなあ。

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コンフィデンスマンJPロマンス編

「リーガルハイ」などの古沢良太が脚本を手掛ける痛快コンゲームドラマの劇場版。「自分でも認めていない本心につけこむ」というドラマの深みはあまりなく、これでもかという伏線、惜しげない豪華な配役で、気持ちよくだまされる。格好いい香港ロケと、主要キャスト・ジェシーの三浦春馬の切ない表情を見るのはは、今やけっこうヘビーだけど…
お話は、お馴染みのダー子たち(長澤まさみ、東出昌大、小日向文世)がロマンス詐欺ジェシーと組んで、香港の女帝ラン・リウ(竹内結子)を騙し宝石を狙うものの、ジェシーはダー子を恨むギャング赤星(江口洋介)とグルで、宝石をかっさらわれる。と思ったら、ラン・リウがダー子と組んでいて、ジェシーに騙された仲間の鈴木さん(前田敦子)も加わり、最初っからまるごと仕掛けで、赤星からカネを巻き上げる、というわけ。
新キャストでジェシーの仲間のはずがダー子を慕っちゃうモナコ(織田梨沙)が可愛い。キンタ(岡田義徳)、ギンコ(桜井ユキ)やドラマ版で標的になった小池徹平、佐藤隆太、吉瀬美智子、石黒賢がちらっと登場。さらに偽造職人で小栗旬、エンドロールの最後の最後に香港プロモーター?で生瀬勝久が怪演と、仕掛け満載です。もう1回観たほうがいいかな。

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