ダンケルク

難解SFのイメージが強いクリストファー・ノーラン監督が、あえてストーリーも説明も排除。言わずとしれた1940年史上最大の撤退戦を、英国側当事者が体感した恐怖、それのみに徹して描く。
とにかくセリフが少ない。なもんで、陸海空3つの視点と1週間・1日・1時間の時間軸が交錯して、正直わかりにくい。でも、無力感だけはヒリヒリ伝わって、見終わったときにはぐったり。録画で。

なんといっても陸=桟橋の二等兵トミー(フィン・ホワイトヘッド)が鮮烈。冒頭から荒廃した街をただ逃げまくるわ、軍用船は次々撃沈するわ。なんという無力感。それでもただ生き残ろうとする、無名で未熟な「その他大勢」のあがきが息苦しい。
海=民間の身で救助に向かう老船長ドーソン(マーク・ライランス、「ブリッジ・オブ・スパイ」のロシアスパイですね)と息子(トム・グリン=カーニー)、それに空=スピットファイアで撤退を援護するパイロット、ファリア(トム・ハーディ)のほうにはヒーロー感があるものの、決してハッピーとはいえない。格好いいのはフランス兵のため、と言って桟橋に居残るボルトン海軍中佐ぐらいかな。堂々ケネス・ブラナーだものね。
33万人の兵士らを、総勢6000人のエキストラと厚紙!の人形で表現したとか。ゲームっぽくない迫力がさもありなん。

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シェイプ・オブ・ウォーター

2018年アカデミー作品賞&ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞の、さえない中年女性イライザとモンスターの恋を描く大人のファンタジー。全編にあふれる「水」が、理屈抜きに本能を揺さぶる。特撮・アニメ好きメキシコ系監督ギレルモ・デル・トロの、イマジネーション力が凄い。これぞ映画、かも。日本版でもR15+だけど、お伽噺ってそういうものだよね。録画で。

「グリーンブック」に続いて1962年、米ソ冷戦下のボルチモア。イライザが深夜、掃除婦をしている秘密研究機関に、アマゾンから謎の生物が運び込まれる。巨大水槽の奥でうごめくのは、なんと半魚人! グロテスクだけど知性があって、声を持たないイライザと手話で会話し始め…
ヒロイン、サリー・ホーキンスがなんとも切ない。孤独で不器用だけど、スパイアクションもどきに活躍して、半魚人を連れ出しちゃう。愛が深まるプロセスの、目の演技に凄みも。ミュージカル好きで、空想のなかでのびのび歌い踊るシーン、好きだなあ。
隣人の時代遅れイラストレーターのリチャード・ジェンキンス、気のいい掃除婦仲間のオクタヴィア・スペンサーがコミカル。一方で、傲慢な軍人マイケル・シャノンが怖すぎます。ほとんどCG半魚人のダグ・ジョーンズは、もともとパントマイマーなんですね。佳作。

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ミックス。

ドラマ「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」の手練れ、古沢良太が脚本を手掛けた卓球コメディ。監督も「リーガル・ハイ」の石川淳一。録画で。
地方都市の卓球クラブとか、大会でのヒエラルキーとかはよくわからないけど、さして格好良くないことに情熱を傾け、つながりが生まれる、というシチュエーションはコメディの王道かも。
新垣結衣が文句なく可愛いし、落ちぶれた元ボクサーの瑛太もいい味だ。元ヤンの広末涼子の切なさがさすが。なんと蒼井優が凄腕の中華料理店のおかみ、吉田鋼太郎が警察官役で怪演。豪華キャストです。

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グレイテスト・ショーマン

大物ヒュー・ジャックマン主演のミュージカル。19世紀の伝説のサーカス興行師P・Tバーナムの半生が題材とあって、いかがわしさ満載。今の時代に合ってるのか合ってないのか微妙だけど、フリークたちの爆発力は爽快だ。機内で。
「ラ・ラ・ランド」のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが担当した楽曲は、期待通りキャッチー。CM出身、初メガホンのマイケル・グレーシー監督が、酒場などレトロなセットで、精緻かつキレキレのダンスシーンを繰り広げる。空中ブランコの浮遊感が効果的です。
バーナムって何故か占いをあたってる、と思っちゃう「バーナム効果」の語源となった人なんですね。短く言うと山師。でも、ジャックマン君なら許せちゃうんだなあ。

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彼らが本気で編むときは、

荻上直子監督・脚本の佳作。ごつい生田斗真が、まさかの性別適合手術を受けたトランスジェンダーの女性リンコを飄々と好演。性をテーマとしつつ、それぞれの親子の歪みと自立、それでも愛おしい母親という存在を、丹念に描いてます。録画で。

11歳のトモ(柿原りんか)はネグレクトにあい、叔父マキオ(桐谷健太)を訪ねると、リンコと本気で同居していた… 3人が暮らし始める団地の一室の揺れる白いカーテンとか、リンコが無念をぶつける大量の編み物のフワフワした感じ、キャラ弁、糸電話なんかが、とても優しい。桜から鯉のぼりに移りゆく普通の郊外の季節感、バイオリンを習ってるけど、トランスジェンダーに悩む友達(込江海翔)が、母(小池栄子)に追い詰められちゃうシーンの激しい雨など、舞台装置も効果的。

生意気なりんかをはじめ、俳優はみな達者だ。身勝手な母にミムラ、夫の浮気に苦しめられた姉弟の母にリリィ、りんかの気風の良い母に田中美佐子、その再婚相手に柏原収史、さらにはリンコの男っぽい同僚ヘルパーに門脇麦、入居者に品川徹、児童相談所職員に江口のりこと、よくぞ揃えたキャスティングです。リリィは遺作なんですね。

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「チョコレートの兵隊さん」「ドレスにかくされた秘密」「マカッチャン夫人」「アメリアのクローゼット」

番外編で「キネコ国際映画祭2017」。25周年を迎える子供映画祭に初めて足を運んでみた。椅子が大きくて快適なシネコンの、109シネマズ二子玉川で。会場周辺はスポンサー企業による撮影やら紙芝居やら、ワークショップテントが並び、レッド―カーペットもあって親子連れで大賑わいだ。

上映作には人気のアニメなどもあるけれど、グランプリノミネートの作品は子供が主役とはいえ、なかなか歯ごたえがある内容。Cプログラムの短編4作を鑑賞した。1本が20分程度で、「ライブ・シネマ」と呼ぶ声優がスクリーン袖に立って、生で吹替をするスタイルだ。

「チョコレートの兵隊さん」はアメリカのジャクソン・スミス監督。第二次大戦末期のドイツで、不自由な疎開暮らしの少女が若いアメリカの兵士と心を通わす実話。
これに比べると、続く「ドレスにかくされた秘密」はかなりシニカルで見ごたえがあった。台湾の女流オン・チ・イ監督。余白があり、詩情豊かな映像で、暮らし向きの違う2人の少女の可愛らしい友情と、その破綻を描く。貧しい祖母の家で暮らす少女が、お洒落な教師に自分を捨てた母を重ねる思いが悲しい。目の演技が印象的な主演のローズ・ユと監督が来日していて、会場の質問に答えてました。山田祐子訳。

後半の「マカッチャン夫人」はオーストラリアのジョン・シーディ監督。お茶目でテンポがあり、タッチは「ドレス…」と正反対ながら、同様に起伏があった。性同一性障害で女の子姿を選択したトムは、周囲の好奇の目に挫けかけるが、級友トリバーの励ましで勇気を得る。ファンキーなトリバーの母や、理解ある周囲の大人が微笑ましく、風船一杯のダンスパーティーシーンが楽しい。泣けた~
最後の「アメリアのクローゼット」はアメリカのハリマ・ルーカス監督。黒人少女アメリアはいじめの仕返しに、級友の持ち物を盗んでいたが、父に諭されて…
4本のうち3本で両親が一緒にいないというのが、世界共有の現実なのかも。

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ギフテッド

先天的に高度な知能を持ち「ギフテッド」と呼ばれる少女をめぐる家族愛。心温まる良質のドラマだ。子役のマッケンナ・グレイスが、生意気でめっちゃ可愛い! キャプテン・アメリカのクリス・エヴァンスも無骨でいい味です。「アメイジング・スパイダーマン」のマーク・ウエブ監督。機内で。

フロリダの小さな町で、質素に暮らす船舶修理工フランク(エヴァンス)と、7歳の姪メアリー(グレイス)。実は少女は数学の超天才で、そのことに気づいた祖母エブリン(バードマンなどのリンゼイ・ダンカン)が英才教育を受けさせようとする。フランクはごく平凡に暮らそうと必死に抵抗し、親権争いに発展しちゃう。背景には、亡くなった実母の姉とエブリンとの、長い確執が隠されていた…

家族の信頼と愛情、ありのままの幸せを願う思いというものを、きめ細かく描いている。次々登場する数学の難問とか、メアリーの普段は大人っぽくて頑固なのに、やっぱり幼い面とか、フランクの飄々としたユーモアとか、細部がなかなか味わい深い。エブリンの視点にたつと、なかなか残酷な展開だけれど。
メアリーに振り回されながらも、フランクの恋人になって2人を支える教師にジェニー・スレイト。飾り気がなくて好感が持てる女優さんです。

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美女と野獣

コクトーらが手掛けてきた18世紀フランス民話をベースにしたアニメを、ディズニー自ら実写化。「ディズニー・ルネサンス」の立役者アラン・メンケンによるディズニー節満載の歌が耳に残る。さらに蝋燭立てや食器、ナプキンが舞い踊るCGが美しくて、全編心地いい。「ドリームガールズ」などのビル・コンドンが監督。機内で。

しっかり者の村娘ベル(エマ・ワトソン、吹替は昆夏美)は野獣(ダン・スティーヴンス、山崎育三郎)の城に囚われ、心を通わせるようになる。野獣はエマの父(「ソフィーの選択」などのケヴィン・クライン、村井國夫)を傷つけ、村人を扇動する悪者ガストン(ルーク・エヴァンズ、四季出身の吉原光夫)と対決し、瀕死となるが、エマの愛を知って魔女(ハティ・モラハン、戸田恵子)は呪いを解く。
ハリー・ポッターシリーズのハーマイオニーだったワトソンが、美しく成長。野獣の表情が、きめ細かくリアルなのにもびっくり。エマの勝気な造形と、2人が打ち解けるきっかけが城いっぱいの本棚=知性であるところがディズニーらしいなあ。人は見かけによらないってことで。

魔法のせいで、ほとんど人間では登場しない野獣の家来たちが、吹替も含めて豪華。気障な蝋燭立ては「ムーランルージュ」などのユアン・マクレガー(成河)、恋人のはたきはググ・バサ=ロー(島田歌穂)、ポット夫人は「日の名残り」などのエマ・トンプソン(岩崎宏美)、衣裳箪笥はミュージカル女優オードラ・マクドナルド(四季出身の濱田めぐみ)といった具合。ほかに歌でアリアナ・グランデやセリーヌ・デュオンも参加。さすがレベル高いなあ。

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LOGAN/ローガン

ミュータントの闘いを描くマーベルコミック「X-メン」のキャラクター、ウルヴァリン(ローガン)を主人公にしたスピンオフ3作目。タイトロールのヒュー・ジャックマンと、プロフェッサーXのパトリック・スチュワートが役からの引退を宣言していて、マニア注目の作品らしい。ジェームズ・マンゴールド監督。機内で。

2029年、隠遁生活だったローガンとプロフェッサーは、謎の少女ローラ(ダフネ・キーン)を預けられ、ミュータントを武器として悪用する組織に狙われながら、北の国境にあるという子供たちの楽園を目指す。
シリーズの知識がないので、爪でザクザク切りまくる残酷過ぎる描写にびっくり。あまりに粗暴で冷酷。だからこそ、育ててくれたプロフェッサーや、自らの遺伝子から作られたローラ、道中で巻き添えになっちゃう田舎暮らしの一家に示す、不器用な愛情が染みるんだろうなあ。なんで放っておいてくれないんだよお、でも傷ついても傷ついても立ち上がるもんね!と、これは普遍的な極道映画の味わい。ロードムービーだし、1953年の西部劇「シェーン」へのオマージュがはまり過ぎで、このへんは大人向けだからこそ。

私にとっては「レ・ミゼラブル」のジャックマンが、17年も演じたというアンチヒーローのアクション、切なさを熱演する。ちっとも可愛くないキーンの存在感も凄い。むすっとしてたのに、話し始めるところとか。さらに我儘老人スチュワートは、病身という設定のため、77歳にして10キロ減量したとか。さすがシェイクスピア俳優。ミュータントという異分子迫害の要素が、ただのダーク・エンタメではないということか。

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