めぐりあう時間たち

METオペラのライブビューイング鑑賞を機に、原作映画をチェック。ニコール・キッドマン、メリル・ストリープ、ジュリアン・ムーアの女優対決で、時間・場所が異なる女性3人のある一日を描く。行ったり来たり複雑なんだけど、静かな映像から、それぞれの何不自由ない日常に潜む抑圧が伝わってきて、実に文学的だ。
監督スティーブン・ダルトリーがロンドンの演劇人で、トニー賞、ローレンス・オリヴィエ賞を各2回受けていると知って納得。「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」も良かったし。キッドマンは本作でアカデミー主演女優賞を獲得しているんですねえ。

原作はピュリッツアー賞を受けたマイケル・カニンガムの小説。1923年、ロンドン郊外のリッチモンドで療養中のヴァージニア(特殊メイクのキッドマン)は、才能と理解ある夫に恵まれているけれど、死のイメージにとりつかれていて、そんな内面を投影した「ダロウェイ夫人」の着想を得る。その「ダロウェイ夫人」を愛読する1951年ロサンゼルスのごく平凡な主婦ローラ(ムーア)は、親友キティへの思いに気づいて自殺しようと、ひとりホテルへ向かう。そして2001年ニューヨーク・マンハッタンの編集者クラリッサ(ストリープ)は50年代とは違い、自立して女性パートナーと暮らし、若いころ恋人だった小説家リチャード(エド・ハリス)の世話をやいている。しかしリチャードもゲイでエイズに侵されており、受賞パーティーを前に投身自殺。知らせを聞いて現れたのは、かつて夫や息子をおいて家を出た母ローラだった…

「花を買ってくる」というキーワードが、ウルフを起点につながっていく現代女性の心情を象徴。豊かさや家族という贅沢を自覚しているのに、才能や恋心を持て余していて、違和感、虚しさを覚えちゃう。親しい人の死に直面して、自らの身代わりのように感じ、なんとか生きていく。ウルフは結局、1941年に入水自殺しちゃうんだけど。「ある一日」から1カ所だけ外れるこのシーン、オフィーリアみたいで印象的です。1日の同時進行や響きあう感じは、物理的に見せるオペラ版のほうが明確だったかな。

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ブラッド・ワーク

自宅の古いDVDから発掘した、クリント・イーストウッド監督・主演の乾いたハードボイルド。真相に迫っていく中盤に意外性があって、なかなか面白い。
「ミスティック・リバー」の前年の公開なんですねえ。知らなかったな。録画で。
マイクル・コナリー原作で、脚本は「LAコンフィデンシャル」のブライアン・ヘルゲランド。マスコミの寵児だったFBIプロファイラー、マッケイレプ(イーストウッド)は、サイコなシリアルキラーを追う途中、心臓発作をおこして退職。2年後、一人気ままに暮らすクルーザーに、ラテン美女グラシエラ(ワンダ・デ・ジーザス)が訪ねてくる。「妹の事件の犯人を突き止めて」との頼みを断れない事情があり、隣の船でぶらぶらしているヌーン(ジェフ・ダニエルズ)を雇って調べ始めると、一見行きずりのような事件の裏に、おぞましいつながりが…

すでに70代!の御大、大病から回復途上という設定もあって、相当ヨロヨロです。にもかかわらず、小さな手がかりを見逃さない冴えた推理に加えて、突然トランクから銃を持ち出して犯人の車に発砲、なんてアクションも披露。ガンマンだなあ。終盤のラブシーンはとってつけた感満載だけど。
ワンダはウエイトレスをしながら、妹の忘れ形見の少年を面倒みていて、ラストシーンが壮絶。ほかにも御大を叱っちゃう医師アンジェリカ・ヒューストン(アダムス・ファミリー!)、市警と張り合う保安官の黒人女性ティナ・リフォードと、女性たちがきりっと勝ち気で格好いい。

 

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グッバイ、レーニン

ヴォルフガング・ベッカー監督の、軽快で淡々としていて、同時に味わい深いコメディだ。ダニエル・ブリュール、カトリーン・ザース。ベルリン旅行の思い出に、録画で視聴。

旧東ベルリンに住んでいた若者アレックス(ブリュール)は、熱烈に社会主義を支持し、病に倒れて壁崩壊を知らなかった母クリスティアーナ(ザース)に命にかかわるショックを与えまいと、東ドイツ体制が継続しているかのように偽装する。
急速に西側文化にさらされ、生活が揺らぐベルリン住民の戸惑いが滑稽、かつシリアスだ。どんどん失われていく東側の文化を再現しようとする、l虚しい努力。なんとテレビニュースも作っちゃったりして、ありえへん。可笑しいんだけど、胸に響く。不便でもダサくても、それが文化だったのだ。

やがて実は家族はかつて、西側に亡命しようとしていたことが判明。政治に翻弄されたそれぞれの人生に、どんな葛藤があったのか…。嘘を突き通そうとするアレックスと、騙されとおそうとする母との、なんとも複雑な表情が、繊細で素晴らしい。国家の統合と、家族の思いが重なっていく佳作。
ちなみに宇宙飛行士役は本物らしい。

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OUT

平山秀幸監督、鄭義信(チョン・ウィシン)脚本。原田美枝子、倍賞美津子。

桐野夏生のヒット作の映画化。弁当工場のパート主婦4人が、ふとしたことからバラバラ殺人にかかわり、平凡な日常を踏み外していく。

ものすごくネタばれですが、原作小説は衝撃的で、なんというか情念がほとばしるような内容。これを果たして映像にできるのかと、かなり疑問に思っていました。
しかし! 焦点の風呂場シーンで、見事にスイッチが切り替わりました。あえて真実味は追わない。そこから、この映画の面白さが始まるのではないでしょうか。閉塞の日常から外へ、OUTへ。映画版ならではのラストもカタルシスをもたらす。あるようでなかった、「女優映画」の佳作だと思います。
それにしても、大森南朋が出てたんだなあ。

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マイノリティ・リポート

スティーブン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン。劇場で。

P・K・ディック原作のSF。犯罪予知システムによって刑事ジョンは追われるはめになり…。

街を歩いていると、個人の嗜好に合った広告が次々表示されるといった、「今そこにある未来」のアイデアが満載。公開当時、生体認証とか個人情報管理といったテーマを論じるとき、頻繁に引用される重要な映画となる気がした。
エンタテインメントとしては、ちょっとイメージを詰め込みすぎで、消化不良かも…。トム・クルーズの張り切りぶりと、コリン・ファレルの若々しさが印象的。

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シカゴ

ロブ・マーシャル監督。レニー・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、リチャード・ギア。劇場で。

ボブ・フォッシーの傑作ミュージカルの映画化。冒頭の「オール・ザット・ジャズ」で、もうノックダウンです。格好いい! 網タイツ万歳。
70年代に、ここまで楽しく、ここまで冷徹にスキャンダリズムを皮肉った舞台を作ったフォッシーに、まず乾杯。そしてフォッシーと、エンタテインメントをこよなく愛することを隠さない、この映画のスタッフに拍手。

ミュージカル映画が好きで、観ると必ず感じるんだけど、ハリウッドスターの芸人魂は見上げたもんだよね。「ムーラン・ルージュ」とか「ヘア・スプレー」とか、最近だと「マンマ・ミーア!」とか。
本作では、リチャード・ギアが下着姿で踊りだしたときには、さすがにちょっとのけぞったけど、それも含めて、「やる時はやる」姿がさすが。特に
レニー・ゼルウィガー。

シカゴ(映画) なんでも屋のアホ日誌

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「HERO(英雄)」

チャン・イーモウ監督。ジェット・リー、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイー。録画で鑑賞。

秦王(のちの始皇帝)暗殺をテーマにした、「羅生門」的な武侠映画。

とにかく映像が圧巻です。評判通り、場面ごとの色使いが鮮烈。美しい画面のなかを、豪華キャストがワイヤーを使って華麗に踊りまくる。そう、この動きはアクションではなく、舞踏でしょ。口をあんぐりして観てしまう。

雄大な砂丘や静謐な湖という舞台装置、そして砂や落ち葉や水の動き。碁とか書とかの文化的な深み。繰り返し出てくる、膨大な兵士と矢だけでも、のけぞってしまう。この想像の世界のような美意識を、現実の映像として撮ってしまう執念が、すごい。恐るべし中国。

音楽も渋いな。「十歩」という 数へのこだわりとか、旗の色の小道具とかが、ファンタジー性を添えてます。衣装はワダ・エミ。

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「スパイダーマン」

サム・ライミ監督。トビー・マグワイヤ。DVDで。

アメコミ映画化の人気シリーズ第一弾。

トビー・マグワイヤのキャスティングが絶妙。格好いいんだか悪いんだか、よくわからないところがいい。苦悩するヒーロー像というか。
ビル壁をはい回り、摩天楼を飛び回る映像が圧巻。それから、最初のコスチュームが手作り、というエピソードに共感したな。

「グリーン・ゴブリン」のウィレム・デフォーが、さすがの存在感でした。

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「コンフェッション」

ジョージ・クルーニー監督デビュー作。サム・ロックウエル。録画で鑑賞。

70年代テレビ界の敏腕プロデューサーが、実はCIA工作員だったと告白(コンフェッション)した伝記の映画化。

クルーニーへのご祝儀ということか、「オーシャンズ」の面々が応援で登場し、すごい豪華キャストだ。凝った映像も印象的です。冷蔵庫の陰影とか。

それなのに、とても地味に仕上がっているのが貴重な感じ。もとになった伝記の内容については、疑問符がついているらしい。映画はその真偽よりも、今日に至るテレビのバラエティー番組の原型を作った「ゴングショー」のホストの小心さ、下世話さや、子供の頃から傷を抱えていたということ。そして成功すればするほど、虚飾とストレスに追いつめられていく心理が、うまく描かれていたと思う。

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少林サッカー

チャウ・シンチー監督・脚本・主演の香港映画。録画で。

特撮・CGを駆使し、燃えるボールなど劇画的シーンが連続の、はちゃめちゃサッカー映画。個人的には少し暴力的過ぎ。でも、ダンスシーンはよかったな。

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