キス・ザ・フューチャー
1990年代のボスニア紛争で、4年にもわたり多大な犠牲を出したサラエボ包囲。戦下を生き抜く若者たちを描いた、秀逸なドキュメンタリーを観る。人道支援のため現地に入った米国人ビル・カーターがU2のインタビューに成功し、バンドは「見て見ぬふりはできない」と、世界各地のライブ会場でサラエボと中継をつなぐ… けっこう入った劇場で。
美しかった街に、市民を狙う乾いた狙撃音が響く。走り抜けるこどもたち、底なしの恐怖。それでも若者たちは地下のディスコで騒ぎ、集まって仲間の結婚を祝い、ミスコンテストを開く。音楽や笑いは正気を保つすべ。決して30年前に終わった光景ではなく、今も世界のどこかにあるという事実を思い、胸がふさがる。
どんどん行動しちゃうビルのパンク野郎ぶりが魅力的。そのクレイジーな働きかけが、ボノと共鳴していく。一方でボノは、現地の悲痛な訴えを発信しても、なかなか救えないことに「リアリティーショーのようだ」と苦悩する。だからこそNATO介入による紛争終結後、再起に向かうサラエボでようやく実現した4.5万人ライブの映像が染みる。人種、宗教が混ざり合う大合唱、喉の不調に見舞われながらの「ONE」の切なさ。
旧ユーゴ出身のネナド・チチン=サインが監督。ニュースや当時のサラエヴォで撮影した映像と、ビル・クリントンを含む多くのインタビューを組み合わせてテンポがいい。製作はマット・デイモン、ベン・アフレック、サラ・アンソニー。 上映後にミュージシャンSUGIZOさんのトークがありました~
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