バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

2015年アカデミー賞作品賞の話題作を、機内で。評判通りすっごく面白かった~ 長回しにしか見えない驚異的な編集力で、妄想シーンを含めドキュメンタリーのような味わいだ。メキシコ出身の曲者アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の才気が光る。
まずブロードウェーの舞台に渦巻くエゴが重層的。欠点だらけで愛らしい俳優たち、次々起こるトラブルに振り回されるプロデューサー、鼻持ちならない女性ベテラン評論家、無責任な大衆。
さらに舞台という芸術への尊敬や、夫婦、親子の不器用な愛情、SNSの怖さなどがからまる。題材となる舞台作品が、気取ったレイモンド・カーヴァー原作というのも面白い。
ユーモアもあって、追い詰められたリーガンがなんと下着姿で、懐かしいブロードウェーの人混みを歩くシーンは爆笑。そして妄想のバードマンと朝のNYを飛翔するシーンの爽快感は、映画的感興に満ちる。
落ち目のヒーローもの俳優リーガン役、「バットマン」のマイケル・キートンがまずいい味。薬物依存を克服しようと付き人をつとめる娘サム役、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンが、繊細で素晴らしい。才能があるが問題児マイクにエドワード・ノートン、マイクの恋人レズリーにナオミ・ワッツ、リーガンの元妻にエイミー・ライアンと、安定感がある。

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ボヘミアン・ラプソディ

応援上映でブームとなったヒット作をシネコンで。ボーカル、フレディ・マーキュリーの苦悩の人生を描く。テンポの良い展開、ラストの壮大なウェンブリー・スタジアムのライブエイドと、「ユージュアル・サスペクツ」の監督ブライアン・シンガーの腕が冴える。
小学校高学年から中学という「クイーン世代」真っ只中としては、なんといっても名曲連打の力が随一。オペラ好きというのもイメージぴったりだ。
とはいえクイーンといえば王子様ロジャー・テイラーと哲学者ブライアン・メイと思っていたし、フレディは単にインド系としか認識してなかったので、実はザンジバル島(イギリス保護区、現在はタンザニア)生まれのペルシャ系パールシー(ゾロアスター教徒、タタですね)で、インドの寄宿学校で育ち、ザンジバル革命の混乱からイギリスに移ったという複雑さにびっくり。移民、宗教、LGBTと現代的な要素がたっぷりで、スターゆえの人生のゆがみが悲しい。
ステージングがそっくりで、絶賛フレディ役のラミ・マレックのほか、温かく見守る元恋人メアリーのルーシー・ボイントンや父母、猫たちが印象的。最後の恋人ジム・ハットンのアーロン・マカスカーもいい味でした~

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ギフテッド

先天的に高度な知能を持ち「ギフテッド」と呼ばれる少女をめぐる家族愛。心温まる良質のドラマだ。子役のマッケンナ・グレイスが、生意気でめっちゃ可愛い! キャプテン・アメリカのクリス・エヴァンスも無骨でいい味です。「アメイジング・スパイダーマン」のマーク・ウエブ監督。機内で。

フロリダの小さな町で、質素に暮らす船舶修理工フランク(エヴァンス)と、7歳の姪メアリー(グレイス)。実は少女は数学の超天才で、そのことに気づいた祖母エブリン(バードマンなどのリンゼイ・ダンカン)が英才教育を受けさせようとする。フランクはごく平凡に暮らそうと必死に抵抗し、親権争いに発展しちゃう。背景には、亡くなった実母の姉とエブリンとの、長い確執が隠されていた…

家族の信頼と愛情、ありのままの幸せを願う思いというものを、きめ細かく描いている。次々登場する数学の難問とか、メアリーの普段は大人っぽくて頑固なのに、やっぱり幼い面とか、フランクの飄々としたユーモアとか、細部がなかなか味わい深い。エブリンの視点にたつと、なかなか残酷な展開だけれど。
メアリーに振り回されながらも、フランクの恋人になって2人を支える教師にジェニー・スレイト。飾り気がなくて好感が持てる女優さんです。

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夜に生きる リブ・バイナイト

「ミスティック・リバー」のデニス・ルヘイン原作によるギャング映画。監督・主演のベン・アフレックが格好良すぎとはいえ、「ゴッドファーザー」風の大河ドラマ感と、禁酒法時代末期の米キューバ関係がよくわかって、かなり面白かった。機内で。

ボストンで暮らすアイルランド系のジョー(アフレック)は、警察幹部の父に反発してチンピラになり、ボスの女(シエナ・ミラーがはすっぱに)との命がけの恋がもとで、アイルランド系と対立するイタリアマフィアに身を投じる。フロリダ州タンパでラム酒密造ビジネスを任され、パートナーのキューバ女性(背中が綺麗なゾーイ・サルダナ)と運命的な恋に落ちつつ、ギャングとして成り上がっていく。
対KKK抗争、カジノ計画を巡るプロテスタント教会との摩擦をへて、大詰め、実力者となったジョーを排除しようとするボスとの、最終決戦に乗り込んでいくところは、お約束のヤクザ映画路線で痛快だ。

派手なドンパチ、暴力やロマンスがたっぷり。「アンタッチャブル」でお馴染みハットにキャデラックというダンディーさに、フロリダのラテンな空気も加わって格好いい。並行して、ジョーはハリウッドで夢破れた少女(エル・ファニング)の過酷な運命や、複雑な人種差別、事実上アメリカ支配下にあるキューバの状況にも心を寄せる。そういう社会派ドラマの要素が加わり、ラストには哀愁も漂う。さすがの上級エンタメ!といえましょう。
原作の映画化権を買ったディカプリオが製作。

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君の名は。

2016年最大のヒット作を劇場で。新海誠脚本・監督の長編アニメで、高校生の切ないラブストーリー。企画・プロデュースは川村元気。
2008年に観た「秒速5センチメートル」から変わらない、驚異的に美しい映像は期待通り。東京・四谷、そして飛騨の様々な風景から、つややかな組紐まで。「ロケ地」巡りが流行るほどのリアルさが、ハリウッドの派手で安易なゲーム風CGを凌駕し、丁寧な作り込みの力を見せつける。

都会に住む男子高校生・瀧(神木隆之介)と、田舎の女子高校・三葉(上白石萌音)が時折、眠っている間に入れ替わり始める。前半は1982年の名作「転校生」風のコメディで、若いふたりの戸惑いと、徐々に心が通い合っていくさまが可愛らしい。スマホで情報を共有していくのが、いまどき。
後半は雰囲気が変わって、意外にも理不尽な大規模災害と、必死に大事な人を救おうともがく怒涛のスペクタクル。そしてパラレルワールドを経て、ラストの抒情がジンとさせる。

強引に泣かせる展開はなく、随所に散りばめられた、ちりちりする感情が巧い。繰り返される扉が閉まるシーンは、観る者に思い通りにならない現実を突きつけるし、「お前は誰だ」という問いは、入れ替わりを表すと同時に、青春期の惑いを想起させる。親しいはずの人の名前がぱっと出てこないもどかしさは、大人になってから思い出そうとする、幼い日々の記憶に重なる。それでも大事な人には必ず、たどり着けるのだ。

神木が切なく、瀧のバイト先の先輩・奥寺さんの長澤まさみもいい味。ロックバンド「RADWIMPS」の楽曲が染みる。巫女シーンの振付は中村壱太郎。

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シン・ゴジラ

話題の12年ぶり和製ゴジラを、「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明総監督・脚本、「進撃の巨人」の樋口真嗣監督・特技監督で。徹底して細かく、かつドライな味わいが、古風でいい。ゲームとファンタジーが幅を利かすハリウッドCGとは明確に一線を画し、安直な庶民の人間ドラマも一切排除した、危機管理シミュレーション映画だ。劇場で。

巨大で、急速に進化する「完全生物」ゴジラが突如、東京に出現。拡散を恐れた米国の主導で、国連多国籍軍は日本への核攻撃を決議する。これを何とか回避しようと、若い政治家(長谷川博己、竹野内豊、松尾諭)と官僚(高良健吾)、米大統領特使(石原さとみ)らは、ゴジラ出現を予見した学者(岡本喜八=写真)の遺稿を解読し、決死の「ヤシオリ作戦」を断行する…

なんといっても、情報をぎっしり詰め込んだ作り込みが見事だ。早口でまくしたてていた元素変換とか極限環境微生物って? ちらっと出ていた人物や組織の背景は? 消化不良というより、もう一度見たい、ディテールを語り合いたい、自分でスピンアウトを作りたい、と思わせちゃう。まさに王道カルト。

古めかしいタイトルデザインやサントラは、反核メッセージをこめたという1954年の第一作を彷彿とさせ、骨太のイメージを盛り上げる。ゴジラという存在は、何も意思表示せず、街を破壊しながら、ただ歩くだけ。駆け引き無しの不気味さが、危機に瀕した人間たちの無力加減を際立たせる。

主要登場人物の造形は、なかなか一筋縄でいかない。若い長谷川らは使命感に燃えて格好いい一方、鼻持ちならないエリートでもあり、権力への野心を隠さない。高齢の政治家たち(大杉漣、柄本明、余貴美子、平泉成)は、想定外続きの事態に対処できず、情けない一方で、大詰めでは意外に決断力、行動力を発揮して頼りになる。決して単純な二分法ではない。

シンプルに「いい役」なのは、長谷川率いる「巨災対」のメンバー(津田寛治、高橋一生、塚本晋也、そしてリケジョの市川実日子)か。各官庁のはみ出し者たちが、偏った専門知識と前例無視の言動で大活躍する、という設定は、オタク心をくすぐり、痛快だ。リアルな会議風景なども、二マリとさせる。

それにしてもキャストは総勢300人超、なんと小出恵介も、斎藤工も、古田新太、吉田鋼太郎さえもほんのチョイ役だ。贅沢だなあ。CGチームやロケ協力などの長大なエンドロールのなかで、主役ゴジラの和風モーションキャプチャーを担当したという野村萬斎の名前が、存在感を放っていた。

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スラムドッグ$ミリオネア

インド・ムンバイ(ボンベイ)のスラムに生まれた少年ジャマールが、クイズ番組で巨額の賞金を獲得するまで。目を背けたくなるような過酷な運命なんだけど、回想シーンを含めてとてもテンポが良く、どこか幻想的かつ知的で、乾いた希望が漂う。秀作だ。録画で。

コールセンターのお茶くみ青年ジャマール(デーブ・パテール、ケニア出身のインド系移民)は、無学なのにインド版「クイズ$ミリオネア」に出演して次々に正答。不正の濡れ衣をかけられ、警察で取り調べ、というか、ありえへん拷問にあう。偶然にも知っている問題が出てたんです、というわけで、壮絶な少年時代を語り始める。
イスラム教徒迫害で母を失い、兄サリーム(マドゥル・ミッタル)、ゆきずりの少女ラティカ(綺麗なフリーダ・ピントー、インド出身のモデル)と、浮浪児に物乞いさせる悪党ママンにつかまる。兄弟は逃げ出して、タージマハルで観光客をだましたり、ハンバーガー店で働いたりして生き抜く。
結局、ラティカが忘れられずムンバイに戻るが、ママンを撃ったサリームは身を守るため、裏社会のボス・ジャヴェドの手下になり、ラティカも差し出しちゃう。ひとりになったジャマールは再会を信じて、ラティカが好きなクイズ番組に出場。兄の犠牲、「ライフライン」の切ない電話シーン、そして感動のラストへ…

パテールの、頼りないんだけど、幼い恋を貫く一途さが全編を牽引。子供時代に臭過ぎる方法でサインをもらう設定のスター、アミターブ・バッチャン(本人は出てないけど)が、実際にクイズ番組の司会だったり、冒頭スーパーが入る4択の答えがラストに出たりと、仕掛けが多くて洒落ている。そしてエンドロールはインド映画へのオマージュ、運命の駅頭での怒涛のダンスシーンだ!

監督は2012年ロンドン五輪開会式の芸術監督を務めた、英国のダニー・ボイル。才人ですねえ。2009年アカデミー賞で作品賞はじめ8部門を獲得。

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ブリッジ・オブ・スパイ

スティーブン・スピルバーグ監督、マット・チャーマンとコーエン兄弟脚本。東西冷戦でスパイ事件に巻き込まれた民間人弁護士の実話を描く感動作だ。機内で。

ジェームズ・B・ドノバン(トム・ハンクス)は保険分野のヤリ手弁護士。1957年にソ連のスパイ、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護を引き受け、国策裁判の壁と世論の批判に立ち向かって、禁固刑を勝ち取る。そして1960年。偵察機パイロットのフランシス・ゲーリー・パワーズ(オースティン・ストウェル)とアベルの交換を託されたドノバンは、極寒の東ベルリンに乗り込み、学生フレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)を含む2対1の交換を主張。CIAのホフマン(スコット・シェパード)らと対立しつつ、命がけの交渉に臨む。

前半はブルックリンハイツなどが舞台。ソ連の核に対する恐怖に煽り立てられる大衆心理と、そんな世間に対し、人権の理念こそが移民国家をまとめる軸だと語るドノバンの毅然さ。今こそ耳を傾けるべきテーマだ。
さらに後半、まさに壁が築かれつつあるベルリンの殺伐とした光景は、個人的にも2年前に訪れているだけに、胸に迫る。チェック・ポイント・チャーリーとグリーニッケ橋の緊迫の交換シーン。ドノバンとアベルは共に国家の非情を知り抜き、立場は決して交わらないが、互いの信念を認め合う関係になっていく。

個人、大衆、国家。いったいこの時から、世界はどれほど進化しているのか。苦みを残す作品でもある。

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黄金のアデーレ 名画の帰還

サイモン・カーティス監督。ナチに奪われた美術品を取り戻す、という主題はジョージ・クルーニーが格好良かった「ミケランジェロ・プロジェクト」と共通だけど、こちらはヘレン・ミレン演じるたった一人の高齢女性の、凛とした闘いだ。日本橋のシネコンで。

ストーリーは若い頃ユダヤ迫害を逃れて渡米し、今は西海岸で小さい洋品店を営んでいる82歳のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)の実話。なんとクリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」を返してほしいと、オーストリア政府を訴えたのだ。高齢女性が単身、一国の政府に戦いを挑む。あなたたちにとっては「オーストリアのモナリザ」と呼ばれる至宝だとしても、「私にとっては叔母なのだ」というセリフが格好いい。

ところがマリアは訴訟のためだとしても、二度とウィーンの地を踏みたくない、と頑なだ。ウィーンに舞い戻ると、恐ろしい脱出の記憶が生々しく甦る。そして終盤には、心の奥底にしまい込んだ、真実の悲しみが吐露される。中東、欧州情勢が動揺している今このタイミングだけに、移民という立場の怒りと深い悲しみがひしひし。いい映画です。

マリアの情熱に巻き込まれ、やがては逆にマリアを鼓舞する役回りとなるのは、駆け出し弁護士のランディ(ライアン・レイノルズ)。初めは頼りないんだけど、作曲家シェーンベルクの孫という血筋のプライドに目覚めていく。マリアの毒舌との、ユーモアあふれるやり取りがとてもチャーミングだ。

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アデライン、100年目の恋

事故によって何故か年を取らなくなり、面倒を避けるため素性を隠して生きる女性アデラインの、生涯2度の恋を描く。荒唐無稽なロマンティックファンタジーだけど、タッチが上品で雰囲気がある。リー・トランド・クリーガー監督。機内の吹き替えで。

一目で運命の彼を恋に落とすヒロイン、アデラインを演じるブレイク・ライヴリーが堂に入った演技だ。見た目は20代でも、100年生きた知恵が溢れる。ユーモアある当意即妙の切り返しもいい。
ちょっと不器用な彼、エリス・ジョーンズ役のマイケル・ユイスマンはなかなか色気があり、その父ウィリアムのハリソン・フォードが元気に走る走る。車のキーを投げるところが素敵だ~
ベテラン、エレン・バースティンが、見た目はずっと年下の母を気遣う娘を好演。説明調のナレーションも古風で悪くないです。

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