麦の穂を揺らす風

アイルランド予習シリーズの最後は、とびきり重い1作となりました。ケン・ローチ監督がアイルランド独立戦争と内戦の過酷さを、ドキュメンタリータッチで容赦なく描き、カンヌでパルム・ドールを受賞。
ロンドンで医師になるはずだったデミアンは、イギリス軍の暴力に耐えかね、IRAのゲリラ戦に身を投じる。恋人の弟の死、兄テディが受ける目を背けたくなる拷問… そして幼馴染の処刑で自ら手を下したことが、決定打となって一線を超えてしまう。
心を失っていくキリアン・マーフィーの、虚ろな目が凄まじい。独立戦争よりもその後の内戦のほうが、犠牲者が多いと言われる悲劇を、兄弟の対立という究極のかたちで突きつける。
女性運動家らとの論争や、神父とのやりとりのシーンなどに、植民地政策がもたらす負の遺産、問題の複雑さがずっしり。できるだけ多くの人に観てほしいかも。

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プラダを着た悪魔

ヴォーグのカリスマ編集長、ミランダ(アナ・ウィンターがモデルとか)のもと、ジャーナリスト志望でアシスタントとなったアンドレアが奮闘するヒット作。華やかなファッションはもちろん、結局は互いに認め合う展開が痛快だ。メリル・ストリープとアン・ハサウェイの演技対決もみもの。デビッド・フランケル監督。録画で。
田舎者のアンドレアがどんどんお洒落になるのが、まず映画らしくて愉快。ミランダは相当横暴だけれど、ファッションビジネスに影響を与える実力をもち、一方で家族と軋轢を抱えている人間らしさがあって、複雑な造形だ。アンドレアが人気作家と知り合って活躍するあたりは荒唐無稽ながら、ミランダと決別する芯の強さに、意外な説得力がある。

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善き人のためのソナタ

フローリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督・脚本。初の長編監督作でアカデミー外国語映画賞をとった感動作だ。旧東独の監視社会を克明に描いていて、ぞくっと怖くて、ラストはじんとする。いい映画です。

舞台は1984年。国家保安省シュタージの優秀なエージェント(ウルリッヒ・ミューエ)が反体制の疑いがある人気劇作家(セバスチャン・コッホ)を監視するうち、切実なピアノソナタや女優(マルティナ・ゲデック)との温かい同棲生活に魅かれていく。
決して派手ではないのに目が離せない、なんとも息苦しい日常、そして作家が社会の実情を西側へ訴えようとする展開のサスペンス! 特に怖いのは、秘密警察が作家たちの使っているタイプライターの機種を調べ上げていて、文字の形やクセで誰の原稿がたちどころに割り出せるところ。とても優秀で技術があって、とても間違っている。
壁が崩れて何年もたって、作家が失脚した有力者から実は監視されていたと聞かされ、当時の記録の開示を求めに行くシーンもびっくりだ。スキャンダラスな事実もすべて、ちゃんと資料が残っているのだから、ドイツ人ってわからないなあ。

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間宮兄弟

追悼で森田芳光監督・脚本作品を、録画で視聴。江國香織原作。

30過ぎの兄弟のオタクな日常、はかない恋をのんびり淡々と描く。兄はビールメーカーの開発担当、弟は小学校の校務員をしながら、2人仲良く一緒に暮らしている。並んでビデオを観るとか、出張先から寝る前に電話しておしゃべりするとか、普通だったら気持ち悪いんだろうけど、佐々木蔵之介、塚地武雅のコメディセンスが高く、にやにやしたり呆れたりしながら思わず応援しちゃう。女性と仲良くなるのに自宅でカレーパーティーとか浴衣パーティーとか、草食過ぎだろう!

内気なのに妙に色気がある小学校教師の常盤貴子、図々しく不倫の悩みを相談してくる上司の高嶋政宏なんかの造形が、誇張してるけど「いかにもいそうな感じ」で秀逸。2人を振り回す美人姉妹は、沢尻エリカとこれが映画初出演だった北川景子。文句なく可愛いです! 兄弟を誇りに思っている素敵な母はなんと中島みゆき。

不登校の生徒が黒板に残すメッセージ、それからいろいろあって、兄弟2人が自転車で駆け抜ける東京の町並みがファンタジックで印象的。冴えなくて、さしたる進歩がなくても、自分なりのライフスタイルをもって真面目に生きていくささやかな満足。

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カーズ

ジョン・ラセター、ジョー・ランフト監督・脚本。ピクサー・アニメーション・スタジオ製作。機内で。

いかにもディズニーですなあ。自信過剰なレーシングカーのマックィーンが、偶然足止めをくらった田舎町で「仲間」「友情」に目覚めるという展開はお約束過ぎるほどで超安心感。全編、擬人化された車しか出てこない設定は、最後までよく意味が分からなかったけど。
西部の美しい渓谷とか、車へのなみなみならぬ愛着なんかは、これぞアメリカ気質というべきか。親子でどうぞ。

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今宵、フィッツジェラルド劇場で

ロバート・アルトマン監督。メリル・ストリープ、ケヴィン・クライン、ギャリソン・キーラー。録画で。

ラジオ局が買収され、打ち切りとなるカントリーミュージック番組の最後の公開生放送をめぐる群像劇。

巨匠アルトマンの遺作。実在のラジオ番組を舞台に、番組中のキャラクターを登場させたりした凝った作りだ。ラジオ局を買収する企業の重役の文化に対する無理解ぶりなど、皮肉も散りばめられているけれど、全体にコミカルで、肩に力が入っていないのが心地いい。

全編をカントリーミュージックが彩る。日本で言えば演歌みたいなものでしょうか。古くさくて野暮ったくて、でも変わらない温かさみたいなものが鳴り響く。思わずメリル・ストリープと一緒にハミングしちゃいますね。
謎の白いトレンチの女や、企業重役が登場するシーンの、深い陰影も目を引きつける。死からは誰も逃れられないように、移ろいゆく時代は止められない。でも、ひとりぼっちではないのだから、笑ってたくましく生きるのだ。

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「M:i:Ⅲ」

J・J・エイ ブラムス監督。トム・クルーズ。試写会で。

007シリーズみたいに、この上なく痛快であることを宿命づけられている「ミッション・インポッシブル」映画化の3作目。

子供心に、テレビシリーズは巧妙な騙しのスリルが醍醐味だった印象がある。そういう先入観からすると、バチカンでのすり替わりシーンが、いかにもミッション・インポッシブルで、ありえねー、と拍手。
そのほかの見所としてはヘリ対決、大爆発など大がかりなアクションが満載で、不死身のトム・クルーズが宙を飛びまくる。舞台も世界を駆けめぐっていて豪華だ。

人間ドラマとか、スリルの要素は薄いものの、ハリウッドの「これでもか」という心意気というか、スター魂を楽しめる。

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「LIMIT OF LOVE 海猿」

羽住英一郎監督、福田靖脚本。伊藤英明、加藤あい。劇場で。

漫画を原作とする、海上保安官ドラマ。ほぼ同じキャストの映画1作目、ドラマも観ており、安心して鑑賞。

職業をめぐる苦悩や使命感が、シリーズの一貫したテーマなんだけど、この映画版では大型フェリーの座礁事故に的を絞ったのが良かった。いわば正調パニック節。爆発、浸水などがなかなか迫力の映像でした。
私としては、こういうものに、ひねりやリアルは求めません。「危機的状況でのプロポーズ」も、この際、待ってました!って感じ。

相変わらずヒーロー過ぎない、頼りなさげな伊藤英明がいい。加藤あいも結構好き。老けないなあ、この人。

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武士の一分

山田洋次監督。木村拓哉、壇れい。試写で。

山田監督の、藤沢周平原作の時代劇三部作の第三作。元毒味役で失明した新之丞が、「武士の一分」をかけて果たし合いに挑む。

ストーリーは意外にシンプルで、結構とんとんと展開する。筋よりむしろ、つつましい日常の細かい描写が印象的。だから、その日常に割り込む不穏な雨とか、いらいらする虫とか、クライマックスの決闘場面の風とかの細部がリアルだ。なぜ、小さな幸せを守ってくれないんだよう! それからとにかく壇れいが綺麗でしたねー。

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「蟻の兵隊」

池谷薫監督。日本軍山西省残留問題の真相を解明しようとする 帰還兵、奥村和一さんを追ったドキュメンタリー。劇場で。

初公開からだいぶ時間が経って、小さい劇場に観に行ったが、グループで来ている人が結構いた。
妥協を知らない80歳の奥村さんの情熱には、正直、ちょっと辟易。けれども、戦時中の中国での所業を妻に隠していると 告白する奥村さんに、かつて日本軍にひどい目にあった女性が「大丈夫、今は悪い人には見えない」と諭すシーンが、強い印象を残す。

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