ジョーカー

稀代のヴィラン(悪党)ジョーカーは、いかにして生まれたか。評判通り全編、主演のホアキン・フェニックスが怪演しまくる。壊れた笑い、3カ月で20キロ減量したという痛々しい体躯での、ゆっくりとしたダンスが生み出す陶酔… 圧倒的で過激な負のエネルギーが、とにかく重い。重いんだけど、目を離せない。凄い俳優だ。

残虐性だけでなく、不適合と孤独、妄想、次第に突きつけられる幼少時の悲惨な体験など、ジョーカーを形作る要素はどれも現実にあることだ。なんとか希望をもとうともがくたび、拒絶に遭う。アメコミのキャラクターを超え、隣にいてもおかしくない「人間」と気付かされて、ぞっとする。

終盤、デニーロ演じる大物テレビ司会者の末路は、豊かな者の「良識」の虚しさを象徴。そして忘れられた者たちの怒りが吹き荒れる。トランプ現象末期を知った今、なおさら切実なシーンだ。
ラストにバッドマン誕生を示唆するものの、これからの長い闘いを思わせるだけで救いはない。つくづく、こんな暗い映画、よく作ったなあ。でもスピーディーで説得力がある。実際、反社会性を糾弾されつつもヒットし、ヴェネチア映画祭金獅子賞、ホアキンはアカデミー賞主演男優賞を獲得した。監督は「アリー」のトッド・フィリップス。

「タクシードライバー」を彷彿とさせる雰囲気と、デニーロがさすがの貫禄を見せるのが、映画好きにとってはご馳走ですね。録画で。

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フォロー・ミー

2020年9月に舞台「あなたの目」(The Public Eye)を観たのをきっかけに、DVDで鑑賞。「アマデウス」のピーター・シェーファーによる1962年初演の戯曲を、「第三の男」のキャロル・リードが映画化、巨匠の遺作となった。人に生きる喜びを与えるのは人しかいない、というテーマが、温かく胸に染みる秀作。

まずもって、痩せっぽちのミア・ファローのチャーミングさが炸裂。豊かな感性を持つヤンキー妻、ベリンダにぴったりだ。
隙さえあればマカロンをぱくつく探偵クリストフォルーのトポルが、人を食った存在感で際立つ。テルアビブ生まれ、「屋根の上のバイオリン弾き」のテヴィエ役で知られる舞台俳優なんですねえ。気取ったロンドンの上流社会で、ベリンダも探偵もストレンジャーであり、無言のうちに通じ合う感じがよくわかる。妻の不貞を疑いつつその感性を誰より愛す、お固い会計士の夫チャールズはマイケル・ジェイストン。

ナショナルギャラリーとかとかのロンドン名所ロケが楽しく、ジョン・バリー(「真夜中のカーボーイ」など)の哀愁漂う主題歌「フォロー、フォロー」も印象的だ。
2010年の東宝系イベント「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」で、リクエスト4位。周防正行監督もファンで、代表作「Shall we ダンス?」で引用しているとか。

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パラサイト 半地下の家族 モノクロVer.

ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ主演、アジア映画初のアカデミー作品賞作&韓国映画初パルムドール作をモノクロバージョンで。ブラックコメディ・スリラー、って紹介だけど、ホント、あらゆる映画的楽しみがぎゅっと詰まってて、高評価がうなづけた。録画で。

前半はテンポの良いスティング。半地下に住む全員プーのキム一家が、息子(チェ・ウシク)、娘(パク・ソダム)の策略により、あれよあれよと父(ガンホ)、母(チャン・ヘジン)まで、IT長者パク夫妻(イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン)の豪邸に職を得る。留守の間に上がりこんで、嵐の庭を眺めながら、酒盛りに羽目を外すまでは痛快だ。
そこへ追い出した家政婦(イ・ジョンウン)が訪れ、なんと豪邸の地下に夫(パク・ミョンホン)も隠れ住んでいたとわかると、事態は一転ホラーに。互いの生き残りをかけた壮絶な乱闘、その後の脱出劇はアクション満載だ。なんとか半地下の自宅にたどり着くと、豪雨で下水が氾濫。胸まで迫る浸水シーンのスペクタクル、高台から押し寄せる水の暴力の圧倒的な残酷さ、絶望感。翌朝は台風一過、何も知らないパク夫妻は晴れ晴れと、ガーデンパーティの準備にキム一家を呼び出しちゃう。避難所で雑魚寝との、なんという境遇の落差か。「地下派」の暗い情念がついに爆発し、パーティーはタランティーノばりの大惨事に…

カラー版をみてないのだけど、モノクロだから終盤の血糊のエグさは控えめで、むしろ光の表現が際立つ印象。息子が初めて高台の高級住宅街を訪れるシーンや、広々した豪邸のリビングに踊る陽光が素晴らしい。
もちろん俯瞰を多用した、振れ幅の大きいカメラワークにも引き込まれる。高低差が端的に表す貧富がリアルで、目が離せない。

貧しいなりに、したたかに生き抜いていたガンホやチェ・ウシクが後半、どんどん表情が暗くなっていくのがシリアスだ。能天気で騙されやすい妻チョ・ヨジョンは、戸田恵梨香似でチャーミング。お嬢様のチョン・ジソも目が大きくて可愛い。それにしてもつくづく、知らないってことは罪深いです。
たまたま「天気の子」と続けて観たので、水の位置づけの差は面白かったな。怒りと諦念と、と思っちゃうのは、ステロタイプかもしれないけど。

追記:後日、カラー・吹き替え版も録画で。ラストのファンタジーの切なさが、より胸に迫る印象。凄い映画です。

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ザ・コミットメンツ

昨夏の思い出、ダブリンが舞台の映画をDVDで。7月末に亡くなったアラン・パーカー監督作。「ミッドナイト・エクスプレス」「ミシシッピー・バーニング」と社会派で怖いイメージだったけど、「フェーム」とか音楽作品もあって、本作はその系譜ですね。
さして取り柄もない若者がソウルバンドを結成し、地元記者とかにちょっと注目されるけど、喧嘩別れしちゃう、というだけの、青春群像ドラマなんだけど、とにかくお下劣、単細胞なやり取りが、なんだか微笑ましくて切ない。いい映画です。

主要なバンドメンバーは、膨大なオーディションで選んだという地元ミュージシャンだけあって、まずモータウンサウンドのライブシーンがご機嫌。ストーリーでも鍵になるウィルソン・ピケットの「ムスタングサリー」やらアル・グリーン「テイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー」やら… 太っちょヴォーカルのアンドリュー・ストロング(10代には見えません)がエモーショナルだし、女性コーラス(必ず3人!)のアンジェリナ・ボールも色っぽい。
演技は素人だからこそ、ドキュメンタリー風になる。ミュージシャンだけど歌わずに主役のマネジャーを演じたロバート・アーキンズが、雰囲気があって実にいい。2代目ドラマーのディヴ・フェネガンは、素顔も役そのままの暴れん坊みたいだし(おまけのメイキング映像で、オーディションなのに監督に食ってかかる意味不明シーンが傑作!) ほかに虚実入り交じった曲者ベテラントランペッターにジョニー・マーフィー。

もちろんただの青春音楽ストーリーではありません。背景にある、ダサくて貧しい街の雰囲気が、絶妙の深みになっている。さすがアラン・パーカー。1991年公開だから、90年代半ばからの「ケルトの虎」と呼ばれたアイルランド成長期の前なんですねえ。
行き場もなく、そのへんの空き地で飛んだり跳ねたりしている大勢の子どもたち、失業給付の長蛇の列。なぜソウルをやるのかと聴かれて、マネジャーは「俺たちはヨーロッパの黒人だ」と答える。労働者階級の閉塞感と大量のビールが、ソウルに命を吹き込んでました。

 

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女王陛下のお気に入り

ギリシャ出身ヨルゴス・ランティモス監督の、18世紀初頭の英国王室を舞台にした大奥もの。アン女王とその寵愛を競い合う女2人の、身もふたもない俗な愛憎劇なんだけど、絢爛豪華な映像美と、緩急自在、鮮烈なタッチで、観るものを引き込む。録画で。

肥満の女王、オリヴィア・コールマンが圧巻の存在感で、アカデミー賞の主演女優賞を獲得。目を背けたくなるような愚鈍さのなかに、どうしようもない孤独と後悔を切々と。
とはいえ女3人のトリプル主演の趣もあり、アビゲイルのエマ・ストーンがまた凄まじい。落ちぶれた元貴族の娘で、宮殿に呼ばれた当初ははおどおどとし、賢くて誠実なんだけど、どんどん変貌。体を張ってアンに取り入ると、ライバルのアン側近サラに毒を盛り、好きでもない貴族と結婚し、ついにはアンをないがしろにし始めちゃう。ようやく登りつめて、音楽にうっとりするシーンの高貴さがたまらない。
対するサラのレイチェル・ワイズは、終始格好よく映画を引っ張る。男装で早駆けしたり、銃を練習したり。頭が切れ、アンを操って並み居る議員を向こうに回し、対仏戦遂行と苛烈な増税を主張する。アビゲイルの奸計で失脚後、アンに詫びようと手紙をしたためるものの、プライドがまさって反故の山となるさまの切ないことよ。人の内面はかくも複雑。

ほとんどのシーンは、現存するソールズベリー伯邸ハットフィールド・ハウスで撮影。なんとエリザベス1世が育った館で、映画ロケ地として有名らしい。長廊下など重厚過ぎる内装、凝った調度と衣装の数々に目を奪われる。なんだか本物感満載。産業革命前とあって夜の暗さも印象的で、若い貴族の男どもの軽薄さが際立ちます。まだ王に権力があって、貴族たちが宮廷内で議会らしき討論をするものの、最後はツルの一声、というあたりも面白い。

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ブラッド・ワーク

自宅の古いDVDから発掘した、クリント・イーストウッド監督・主演の乾いたハードボイルド。真相に迫っていく中盤に意外性があって、なかなか面白い。
「ミスティック・リバー」の前年の公開なんですねえ。知らなかったな。録画で。
マイクル・コナリー原作で、脚本は「LAコンフィデンシャル」のブライアン・ヘルゲランド。マスコミの寵児だったFBIプロファイラー、マッケイレプ(イーストウッド)は、サイコなシリアルキラーを追う途中、心臓発作をおこして退職。2年後、一人気ままに暮らすクルーザーに、ラテン美女グラシエラ(ワンダ・デ・ジーザス)が訪ねてくる。「妹の事件の犯人を突き止めて」との頼みを断れない事情があり、隣の船でぶらぶらしているヌーン(ジェフ・ダニエルズ)を雇って調べ始めると、一見行きずりのような事件の裏に、おぞましいつながりが…

すでに70代!の御大、大病から回復途上という設定もあって、相当ヨロヨロです。にもかかわらず、小さな手がかりを見逃さない冴えた推理に加えて、突然トランクから銃を持ち出して犯人の車に発砲、なんてアクションも披露。ガンマンだなあ。終盤のラブシーンはとってつけた感満載だけど。
ワンダはウエイトレスをしながら、妹の忘れ形見の少年を面倒みていて、ラストシーンが壮絶。ほかにも御大を叱っちゃう医師アンジェリカ・ヒューストン(アダムス・ファミリー!)、市警と張り合う保安官の黒人女性ティナ・リフォードと、女性たちがきりっと勝ち気で格好いい。

 

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殺し屋

腕利きながら、年をとってボロボロの殺し屋アッシャーが、愛する人のために闘う。
ストーリーはベタなんだけど、乾いた絵づくり、NYの街並み、無口だけどニヤリとさせるセリフが格好いい。ハードボイルドは字幕が楽って言うけど、これはこれで難しいよね。マイケル・ケイトン・ジョーンズ監督。DVDで。
主演のロン・パールマンがとにかくいかつくて、ヨタヨタしてて哀愁が漂う。恋人もごつめのファムケ・ヤンセンでバランスは悪くない。敵役に曲者リチャード・ドレイファス。
恋人がバレエ教師という設定で、BGMに美しいクラシックが挟まる。この落差は巧いなあ。

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

脚本・監督クエンティン・タランティーノのB級映画愛あふれる1作。文字通りのハリウッドスター、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットの初共演作にして、2人の堂々のおっさんぶりに笑っちゃう。しかもラストはきっちりスターぶりを見せつけるんだもの。さすがです。録画で。
ストーリーの大枠は、1969年にロマン・ポランスキーの妻で女優のシャロン・テートが、カルト集団チャールズ・マンソン・ファミリーに殺害された事件の歴史改変劇。終盤、事件当日に近づいていくカウントダウンがスリリングだ。
そこまではひたすら、カウンターカルチャーの台頭で時代遅れになった西部劇スター、リック・ダルトン(レオ様)とその相棒スタントマン、クリフ(ブラピ)の哀愁、諦め、消えない矜持と友情を描いて、妙にしみじみする。
レオさま渾身の敵役に迫力があり、アイスペールでマルガリータをぐびぐび呑むダメ男ぶりも魅力的。一方、気はいいんだけど乱暴者、リックのドライブシーンの疾走感とか、無茶なファイトぶりにニマニマしちゃう。
シャロンのマーゴット・ロビーが、伸び伸びと無邪気で、なんともいい。自分が出演しているスパイ映画を観に行って、観客に受けるのを喜ぶシーンが最高。ほかに西部劇好きのプロデューサーにアル・パチーノ、生意気な子役ジュリア・バターズら曲者がずらり。
本当は、古いテレビドラマや映画に詳しいと、面白いんだろうなあ。お説教好きのブルース・リーはわかるけど。カウンターカルチャー側の成功者スティーブ・マックイーンが、プレイボーイ・マンション(ヒュー・ヘフナー邸)のパーティーシーンにちらっと登場したりしてるほか、いろんな小ネタが散りばめられているみたい。

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アリー/スター誕生

主題歌の大ヒットが懐かしい、1976年バーブラ・ストライサンド主演「スター誕生」の、また37年の元ネタからは3度目のリメーク。主演レディー・ガガ様の、切なくもパワフルな歌唱力を楽しむ。機内で。
片田舎のウエイトレス・アリー(ガガ)が、カントリーロックの大物ジャクソン(監督でもあるブラッドリー・クーパー)に見いだされ、結婚すると同時に、ポップスターの階段を上がっていく。痛快だし、ライブシーンなどにガガの才能と温かみが溢れて、説得力がある。
一方、ジャクソンはアリーと出会う前からアル中という設定。支えていた兄とも決裂しちゃって、泥沼にはまっていく。痛々しいものの、ダメな感じは色っぽいな。
音楽プロデュースはルーカス・ネルソン。ダイアン・ウォーレンらが曲を提供してるようです。

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グレイテスト・ショーマン

大物ヒュー・ジャックマン主演のミュージカル。19世紀の伝説のサーカス興行師P・Tバーナムの半生が題材とあって、いかがわしさ満載。今の時代に合ってるのか合ってないのか微妙だけど、フリークたちの爆発力は爽快だ。機内で。
「ラ・ラ・ランド」のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが担当した楽曲は、期待通りキャッチー。CM出身、初メガホンのマイケル・グレーシー監督が、酒場などレトロなセットで、精緻かつキレキレのダンスシーンを繰り広げる。空中ブランコの浮遊感が効果的です。
バーナムって何故か占いをあたってる、と思っちゃう「バーナム効果」の語源となった人なんですね。短く言うと山師。でも、ジャックマン君なら許せちゃうんだなあ。

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