温泉シャーク

クラウドファンディング1000万円突破というサメ映画。ちょっと縁があって足を運んでみた。渋谷の映画館で。
夏になるとWOWOWでサメ映画特集があるのには気づいていたけれど、観ようとは思っておらず、けっこう観客が入っているのにまずびっくり。おタクっぽく脱力系の笑いが穏やかだ。
1時間強、全編まあ、B級感が満載。「暑海市」で温泉客がサメに襲われる事件が相次ぐ。獰猛で妨害電波まで発する古代サメの大群が、なんと地中を自在に動き回っていた! あれよあれよとパニック、全市破壊命令、潜水艇でボスザメと対決…と、すべてが徹底的にチープ。
学生映画のような演技がまた強烈。やせっぽちでやたら発砲する警察署長(金子清文)、サメ退治で成長していく丸顔のダメ市長(藤村拓矢)、同行する可愛いサメオタク学者(中西裕胡)…。いちばん謎なのはほとんど口をきかず、超人的な身体能力でサメに立ち向かうマッチョ(椎名すみや)。いやはや。
脚本・監督の井上森人は、岡本太郎現代芸術賞にコントユニット「そんたくズ」で入選、自主怪獣映画選手権で優勝経験あり、とか。ますますわからない。テレビコメンテーターで熱海在住の巻上公一登場。

| | | コメント (0)

トノバン 音楽家、加藤和彦とその時代

お洒落で、才人で、飄々として、きら星のようなミュージシャンたちに影響を与えた加藤和彦の足跡を、ゆかりの人物へのインタビューでつづる。書籍「安井かずみがいた時代」で関心を持っていて、劇場へ足を運んだ。今は亡き高橋幸宏の言葉が、制作のきっかけだったとか。相原裕美監督。

70年代のサディスティック・ミカ・バンドは今聴いても格好いい。でも60年代に社会現象を起こしたフォークソングや、ミカ・バンド解散後の爛熟したヨーロッパ3部作などは正直、そう好みではない。だけど成功に全くこだわらず、多様なジャンルで創作し続けた才能に、改めて驚嘆する。
高中正義が「帰って来たヨッパライ」のイントロの新規性を解説。そうかー、コミックソングだと思っていたけど。いまでいうインディーズから深夜ラジオのオンエアをきっかけにオリコン史上初のミリオンヒットをたたき出し、海外に負けないライブのためにPA会社を設立。ミカバンドでは国内より先にロンドンで注目され、制作ではマルチテープを思い切って切っちゃうとか、時代を拓いていくエピソードにワクワクする。
なにせアルバムのたびにアラバマだのバハマ、ベルリン、パリだので、まず家を借りちゃうし、愛妻ミカのためにロールスロイスを購入。美食家としても一流と、格好良さは伝説だ。

華やかさの一方で、どこか寂しさもつきまとう。ミカはビートルズも手がけたプロデューサー、クリス・トーマスの元へ走り、その傷心を救った大きな存在、ズズ(安井)も病で失う。多くのミュージシャンに尊敬され感謝されながら、朝妻一郎、新田和長、松山毅らと徐々に疎遠になっていったらしい。少年時代から今いる場所に違和感を覚えていたよう、と語る盟友きたやまおさむの、最期を巡る言葉が悲痛だ。

多くのレコーディングに参加した坂本龍一(多分電話の録音)や、「結婚しようよ」のプロデュースを受けた吉田拓郎(ラジオかな)らの証言が貴重。個人的にはサイクリング・ブギで弾ける竹内まりやの映像にびっくり! 一緒に音楽番組を持っていたとは。

| | | コメント (0)

PERFECT DAYS

「ベルリン・天使の詩」のヴィム・ヴェンダースが監督、知人がエキストラで参加したと聞いて、劇場に足を運んだ。役所広司が東京の片隅に生きる、無口で丁寧なトイレ清掃員を好演。晴れでも雨でも、毎朝空を見上げて微笑む。孤独でワンパターンで清々しい日々を、お説教臭くなく描いて、心に染みる名作だ。1300円。
ワゴン車で聴く中古カセットはルー・リード、ザ・キンクス、ニーナ・シモン! ランチに神社の隅のベンチでサンドイッチを食べつつ、フィルムカメラで木漏れ日を録る。後悔も怒りもある。それでも自ら選びとった幸せのかたち。
脇がまた贅沢だ。気のいい同僚に柄本時生、入れ込んでいる相手に個性派アオイヤマダ、踊るホームレスに田中泯、家出してくる姪にみずみずしい中野有紗、週末に通うバーのママに石川さゆり、その元夫に三浦友和。ほかにも中古レコード屋店員が松居大悟、カメラ店主人が柴田元幸、ひとこと書評が渋い古本屋店主が犬山イヌコ、「朝日のあたる家」を伴奏するバー常連があがた森魚…
制作のきっかけは、渋谷区17か所の公共トイレを刷新する「THE TOKYO TOILET」を主導した柳井康治ファーストリテイリング取締役と電通の高崎卓馬が、ヴェンダースに短編PR動画を依頼したこととか。主人公の名「平山」をはじめ小津安二郎へのオマージュがにじむ。製作は Master Mind、スプーン、ヴェンダース・イメージズ。カンヌでは役所が日本人俳優として19年ぶり2人目の男優賞を受賞。

| | | コメント (0)

怪物

カンヌで脚本賞を獲った話題作を劇場で。不穏な空気のなか、3つの視点から徐々に明らかになっていく驚きの真相。いったい誰が被害者で、誰が加害者なのか。「大豆田とわ子」などの坂元裕二による、秀逸な脚本に引き込まれます。
そしてたどり着く、切な過ぎるラストシーン。あの線路は、どこへ向かうのだろう。公開前に亡くなった坂本龍一のピアノが、こんなにも染みるとは。監督は「万引き家族」などの手練れ、是枝裕和。川村元気らの企画・プロデュースで。

舞台は諏訪湖畔の小学校。シングルマザー早織(安藤サクラ)は息子・湊(黒川想矢)の異変から、学校に教師・保利(永山瑛太)の虐待を訴え、校長(田中裕子)らの誠意ない対応に憤りを募らせていく。一方、身に覚えのない保利は、むしろ湊の依里(柊木陽太)へのいじめを疑っていたが、早織も校長らも信じてくれず、追い込まれてしまう。
そして湊の視点に転じると、すべてが違って見えてくる。冒頭の火事や、衝撃的な自動車事故にどんな切迫が隠されていたか。少年の孤独と自己嫌悪、廃線跡の秘密基地のわくわく、淡い恋。ある朝、保利と早織はようやく自分たちの「正義」の見当違いに気づき、暴風雨をついて、ふたりの行方を追うが…

なんといっても柊木の存在感が凄い。撮影時、設定(小5)通りの10才ぐらいなんだけど、もって生まれた妖しさ、これ、同級生にいじられちゃうのもわかります。そして瑛太の、観る者をいらいらさせる造形が見事だ。一生懸命なんだけど不器用で、うまく立ち回れずに歯車を狂わせていく。こういう人、いるよなあ。
ワキも高水準で、ずっと無表情でいる田中が垣間見せる、絶望の深さたるや。サックスの伏線が効いています。ほかに保利のドライな恋人に高畑充希、依里の問題のある父に中村獅童。

| | | コメント (0)

BLUE GIANT

評判を聞き、石塚真一作・人気漫画のアニメ化を劇場で。ジャズの知識は皆無なんだけど、上原ひろみの音楽とピアノはさすが本物の疾走感。ほかにサックスはバークリー出身・馬場智章、ドラムはKing Gnuの前身に在籍したという石若駿。
盛り上がる演奏シーンは先に音を録って、後から絵をつけたとか。サックス奏者の息切れとか面白いけど、新海誠を観ちゃっているせいか、動きがちゃちいのは否めない。監督 は「名探偵コナン」などの立川譲、脚本は担当編集者の別名だというNUMBER 8。そもそも漫画で『ジャズを聴く」ってどんな感じなのかなあ。

知人が全編泣きっぱなしだったというストーリーは、仙台の高校生・宮本大がジャズサックス奏者を目指す成長譚。上京し、メンバーと出会ってバンド結成、最高峰ライブハウス「So Blue」への出演を果たす。クライマックス、入院中だったピアノ沢辺雪祈も加わってのアンコールは映画版オリジナルだとか。そのへんはベタなんだけど、ほかにこみいったエピソードが無く、ただまっすぐ理想を追いかける大の造形が、確かに魅力的だ。
声のキャストが贅沢で、大は山田裕貴、生意気な天才・雪祈は間宮祥太郎、人の良い努力家・ドラムの玉田俊二が岡山天音。

| | | コメント (0)

ドライブ・マイ・カー

「スパイの妻」脚本の浜口竜介が監督し、カンヌ脚本賞のほか、アカデミー4部門ノミネートで国際長編映画賞をとった話題作。いかにも村上春樹っぽいエピソードのつらなりで、孤独な現代人たちに、「大事な人には、思いを口にした方がいいよ」としみじみ語りかける。録画で。

物語としては、舞台演出家の家福(西島秀俊が理性的すぎる男を淡々と)が地方都市の演劇祭で多言語劇を演出する過程で、2年前に死んだ妻・音(霧島れいかが色っぽく)が抱えていた深い闇や、自らの悔恨に向き合っていく。淡々とした3時間だけど、妻の浮気相手だった俳優で、暴力沙汰を起こしちゃう高槻耕史(岡田将生が危うく)、送迎を担当する腕の良いドライバーで、虐待の過去を持つ渡利みさき(ただ者じゃない感じの三浦透子)に存在感があって、退屈はしない。

家福がみさきを信頼するのは、大切にしている赤の「サーブ900ターボ」を滑らかに運転するから、妻は運転が下手だったけど、という設定が、感覚的で面白い。
また、上演する「ワーニャ伯父さん」が戯曲としていかに大きな存在か、が興味深かった。なにしろ着地点がそのラストシーン「仕方がないわ、生きていかなければ!」だし、「チェーホフの戯曲は自分を差し出すことを要求する」といった言及も。そうかあ。
上演方法はなんだか不思議。最初ひたすら戯曲を棒読みするし、俳優がばらばらの母国語でしゃべって、手話まであるし。確かにコミュニケーションというテーマに直結するんだけど。公園での立ち稽古で、台湾出身の可愛いソニア・ユアン、韓国手話を使うパク・ユリムに「何かが起きる」シーンが巧い。

ラストシーンの解釈はいろいろあるらしく、ちょっと消化不良… ま、明るいからいいか。

| | | コメント (0)

コンフィデンスマンJP英雄編

コンフィデンスマンJPの劇場版第3作を、思いがけず日本橋シネコンで。マルタの海や坂道が贅沢に旅情を盛り上げ、いつものダー子の下世話なはじけっぷりが痛快で、ひたすら脳天気な時間が嬉しい。長澤まさみはいまや冨士真奈美への道か。監督田中亮。

実は古沢良太の脚本は、いつになく重苦しい。師匠3代目ツチノコ(角野卓造)の死去でぼくちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)はやる気を失い、仲間のはずの3人は引退をかけてバトルに臨む。リチャードは手段を選ばない非情漢に変貌しちゃうし、インターポールのマルセル真梨邑(瀬戸康史)と丹波刑事(松重豊)に追い詰められちゃうし。瀬戸は気取ったワルがお似合いです。

でもお約束、大詰めでは時間を遡っての種明かし、さらに、どんでん返しに次ぐどんでん返しでスカッとする。五十嵐(小手伸也)、波子(広末涼子)、モナコ(キュートな織田梨沙)、コックリ(可愛い関水渚)、そしてもちろん赤星(江口洋介)も健在で、それぞれコメディセンスを発揮。赤星のヤクザなのに間抜けな感じがよくて、成田三樹夫っぽくなってきた。

本作で一区切りってうたってるけど、まさかの超ちょい役・高嶋政宏、何やら強敵になりそうな関西弁の真木よう子も登場してたし、さらなる続編につながるのか?
髭男のエンディングテーマ「Anarchy」がクール。生瀬勝久登場の「鳥獣戯画」で上書きされちゃうけどね。

| | | コメント (0)

蜂蜜と遠雷

映像表現が美しく、心洗われる音楽映画の佳作。不思議ちゃん風間塵を演じた鈴鹿央士がみずみずしい。国際コンクールで競い合うピアニストたちの群像、若者の葛藤と成長を描いた恩田陸の直木賞・本屋大賞ダブル受賞作を映画化。監督・脚本はドキュメンタリー出身の石川慶。

ライバルである松岡茉優、森崎ウィン、臼田あさ美、松坂桃李らが、ひととき息抜きする砂丘。ケンケンパがいつも間にかモーツァルトになっちゃうシーンの解放感が素晴らしい。世界のすべてが音楽に聴こえている、そんな天才っているんだろうなあ。ロケ地は南房総だそうです。終盤、降りしきる雨のなかから、表現したい気持ちがわき上がっていくところも素敵。

プロコフィエフ等々、映画化最大の難関だったろうピアノ表現は、メーンキャストそれぞれにピアニストを起用する豪華さだ。ドイツ在住の河村尚子(松岡)、福間洸太朗(臼田)、金子三勇士(森崎)、藤田真央(鈴鹿)といずれも日本を代表する若手だとか。課題曲「春と修羅」は、藤倉大が4人に異なるカデンツァ(即興的部分)も作曲!

クールな審査員長の斉藤由貴と、「わかってそう」なクロークの女性、片桐はいりがいい味だ。設定のモデルは3年に1度の浜松国際ピアノコンクールだそうです。

| | | コメント (0)

コンフィデンスマンJP プリンセス編

ご存じ古沢良太脚本のシリーズ映画化第2弾。2020年7月公開の前後に、第1弾から継続の三浦春馬、竹内結子の衝撃的な不幸があったけど、スクリーンの笑顔は永遠です。マレーシア・ランカウイ島リゾートのリッチ感、コンゲームの痛快もさることながら、騙すというより本当に欲しいものを差し出すダー子(長澤まさみ)の智恵に喝采。伏線回収の快感と、ミシェルの種明かしも効いてます。田中亮監督、録画で。

世界的大富豪フウ家の当主が隠し子ミシェルに全財産を譲ると遺言。ダー子は詐欺師仲間の遺児コックリ(関水渚)をミシェルに仕立てて、大芝居をうつが、反発する3きょうだい(揃って濃ゆいビビアン・スー、古川雄大、白濱亜嵐)に加え宿敵・赤星(江口洋介)まで現れて絶体絶命に。

おどおど少女から、可愛く賢いセレブへと開花する関水が鮮やか。すべて呑み込む執事の柴田恭兵、調子に乗っちゃう未亡人詐欺の広末涼子ら、芸達者な贅沢キャストが揃ってコメディを楽しんでいる感じがいい。「相棒」で個性的な弁護士役だった織田梨沙、存在感あるなあ。
主題歌はお馴染み髭男の「Laughter」。このシリーズは韓国版、中国版も製作するとか。羽ばたいてほしいものです。エンドロール後の階段落ちは意味不明だったけど…


| | | コメント (0)

ミッドナイトスワン

草薙剛のトランスジェンダー役が絶賛され、日本アカデミー賞作品賞、主演男優賞などを得た話題作。ショーパブ群像の目を覆うばかりの侘しさ、底辺感と、対照的にバレエを踊る少女の美しい指先、圧倒的なみずみずしさが鮮烈だ。内田英治脚本・監督。録画で。

新宿三丁目で働く凪沙(草薙)は気が進まないまま、ネグレクトに遭った親戚の中学生・一果(服部樹咲)を預かる。当初はとげとげしているものの、徐々に互いの真情を理解。一果に群を抜くバレエの才能があると知り、凪沙はなんとかして応援したいと思うようになる…

主人公2人だけでなく、取り巻く女たちもみな生きるのが下手。オデットが象徴する深い哀しみが全編を覆って、息が詰まる。墜ちていくショーガール瑞貴(田中俊介)、酷い目に遭わされても一果が求め続ける母(水川あさみ)、息子の変わりように取り乱す田舎の母(根岸希衣)、裕福だけど世間体ばかりの親友の母(佐藤江梨子)。なかでも親友りん(上野鈴華)の運命は、その飛翔が美しいだけに衝撃だ。実年齢20歳なんですねえ。

問題はどれも根深すぎて、なんにも解決しない。それでも、殺伐とした街で凪沙と一果が肩寄せ合い、手作りハニージンジャーソテーを食べるシーンが、なんとも温かくて感動を呼ぶ。そして大詰め、成長した一果が凪沙を思わせるトレンチコートにハイヒールといういでたちでコンクールに臨む凜とした姿に、えもいわれぬ解放感がある。エンタメとして成立してます。
印象的なピアノは音楽の渋谷慶一郎。バレエ教師・真飛聖のたたずまいのモデルは、監修した千歳美香子だそうです。

| | | コメント (0)

より以前の記事一覧