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2022年12月

スリー・ビルボード

がつんとやられました。さえない中年男女たちが必死にもがき、それぞれの心の傷をさらけ出していく。暴力と炎と下世話さが満載なんだけど、どこかペーソスが漂い、切なくて可愛い。秀逸な脚本・監督は「ビューティ・クイーン・オブ・リーナン」などのマーティン・マクドナー。「ノマドランド」のフランシス・ルイーズ・マクドーマンドが主演で、まさかの攻撃を繰り出して圧巻のはまり役だ。思い切りよすぎでしょ。録画で。

南部ミズーリの町外れに、レイプ殺人の未解決を責めたてる3枚の看板が出現。被害女性の家族、警察や町の人々に波紋を巻き起こす。人生、悪いことしてなくても悲運は起こる。それでも生きていくしかないし、どうするかは「道々考えればいい」。いやー、深いなあ。

なにしろ俳優陣が揃って一癖あって素晴らしい。問答無用で突き進む被害者母のマクドーマンドが抱える、深い後悔。責められた側の署長ウディ・ハレルソンの色気と包容力。そしてレイシスト巡査サム・ロックウェルの屈折、ダメ男ぶりが、実に味わい深い。アカデミー助演男優賞受賞もむべなるかな。「スポケーンの左手」観たいなあ。

印象的なシーンもたくさん。マクドーマンドが焼けた看板を貼り直すくだりで、軽い調子で署長を「スポンサーだもの」というところ、広告業者の意外に骨があるケイレブ・ランドリー・ジョーンズがロックウェルにオレンジジュースを差し出して、ストローを向けるところ… 秀作です。

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ブラックバード 家族が家族であるうちに

安楽死を選んだ母リリーと、最後の週末を過ごす家族の心の揺れ。録画で。
ゆったりしたタッチは好感が持てるけど、安楽死が合法化されている2014年デンマーク映画のリメイクのため、決断の尊重ありきに違和感をぬぐえない。心配な妹娘を励まして終わるあたりはまだしも、なぜか家族の集まりに混じっている長年の親友の存在は、よくわからんなあ。

キャストは高水準。母スーザン・サランドンの気の強さがマリファナを持ち出したりして、ウッドストック世代らしい。季節外れのクリスマスディナーを提案し、ドレスで着飾る姿も格好良いし。優等生の姉娘ケイト・ウィンスレットは普通の叔母さんで、オーラを完全に消しててびっくり。オスカー女優の初共演だそうです。不安定な妹娘ミア・ワシコウスカ、髭が男前の父サム・ニールも魅力的。
静謐な物語にぴったりの人里離れた海辺に建つお洒落な家、温室のある庭、荒涼とした風景が素晴らしい。米コネチカットの設定だけど、ウィンスレットの提案で自宅があるイギリスのチチェスターで撮影したそうです。2021年に亡くなったイギリスのロジャー・ミッシェルが監督。

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ドライブ・マイ・カー

「スパイの妻」脚本の浜口竜介が監督し、カンヌ脚本賞のほか、アカデミー4部門ノミネートで国際長編映画賞をとった話題作。いかにも村上春樹っぽいエピソードのつらなりで、孤独な現代人たちに、「大事な人には、思いを口にした方がいいよ」としみじみ語りかける。録画で。

物語としては、舞台演出家の家福(西島秀俊が理性的すぎる男を淡々と)が地方都市の演劇祭で多言語劇を演出する過程で、2年前に死んだ妻・音(霧島れいかが色っぽく)が抱えていた深い闇や、自らの悔恨に向き合っていく。淡々とした3時間だけど、妻の浮気相手だった俳優で、暴力沙汰を起こしちゃう高槻耕史(岡田将生が危うく)、送迎を担当する腕の良いドライバーで、虐待の過去を持つ渡利みさき(ただ者じゃない感じの三浦透子)に存在感があって、退屈はしない。

家福がみさきを信頼するのは、大切にしている赤の「サーブ900ターボ」を滑らかに運転するから、妻は運転が下手だったけど、という設定が、感覚的で面白い。
また、上演する「ワーニャ伯父さん」が戯曲としていかに大きな存在か、が興味深かった。なにしろ着地点がそのラストシーン「仕方がないわ、生きていかなければ!」だし、「チェーホフの戯曲は自分を差し出すことを要求する」といった言及も。そうかあ。
上演方法はなんだか不思議。最初ひたすら戯曲を棒読みするし、俳優がばらばらの母国語でしゃべって、手話まであるし。確かにコミュニケーションというテーマに直結するんだけど。公園での立ち稽古で、台湾出身の可愛いソニア・ユアン、韓国手話を使うパク・ユリムに「何かが起きる」シーンが巧い。

ラストシーンの解釈はいろいろあるらしく、ちょっと消化不良… ま、明るいからいいか。

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