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2022年1月

蜂蜜と遠雷

映像表現が美しく、心洗われる音楽映画の佳作。不思議ちゃん風間塵を演じた鈴鹿央士がみずみずしい。国際コンクールで競い合うピアニストたちの群像、若者の葛藤と成長を描いた恩田陸の直木賞・本屋大賞ダブル受賞作を映画化。監督・脚本はドキュメンタリー出身の石川慶。

ライバルである松岡茉優、森崎ウィン、臼田あさ美、松坂桃李らが、ひととき息抜きする砂丘。ケンケンパがいつも間にかモーツァルトになっちゃうシーンの解放感が素晴らしい。世界のすべてが音楽に聴こえている、そんな天才っているんだろうなあ。ロケ地は南房総だそうです。終盤、降りしきる雨のなかから、表現したい気持ちがわき上がっていくところも素敵。

プロコフィエフ等々、映画化最大の難関だったろうピアノ表現は、メーンキャストそれぞれにピアニストを起用する豪華さだ。ドイツ在住の河村尚子(松岡)、福間洸太朗(臼田)、金子三勇士(森崎)、藤田真央(鈴鹿)といずれも日本を代表する若手だとか。課題曲「春と修羅」は、藤倉大が4人に異なるカデンツァ(即興的部分)も作曲!

クールな審査員長の斉藤由貴と、「わかってそう」なクロークの女性、片桐はいりがいい味だ。設定のモデルは3年に1度の浜松国際ピアノコンクールだそうです。

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博士と狂人

大英帝国を象徴するオックスフォード英語大辞典(OED)の初期編者が、実は博士号をもたない異端の言語学者と、殺人犯だったという「スキャンダル」を描いた重厚なドラマ。ショーン・ペンの狂気の演技が真に迫りすぎて、どうにも暗いんだけど、丁寧なつくり。P・B・シャムラン監督。録画で。

帝国最盛期の19世紀後半。世界各地の「公用語」の権威たる辞書編纂という一大プロジェクトがスタート、前任の急逝で責任者に起用されたジェームズ・マレー(メル・ギブソン)は古今の語彙を集めるため、一般から投稿を募る。大量の原稿を送ってくる頼もしい協力者ウィリアム・マイナー(ペン)は米国の軍医で、なんと南北戦争で精神を病み、妄想から殺人を犯して精神科施設に収監中だった。

マレーもマイナーも言語に魅入られた偏執狂であり、「art」1語から、知的で無二の友情が芽生えていく。マイナーが40年も閉じ込められた、暗く殺伐とした施設。その壁一面を覆う、白い単語のメモが美しい。マイナーが被害者の妻(ナタリー・ドーマー)に、読み書きという知識によって報いようとする思いは崇高だし、マレーが献身的な仕事ぶりで、もったいぶった学者たちを見返す痛快さもある。
しかし後半、マイナーが激しい自責の念と、野蛮な治療によって追い込まれてしまうさまは悲惨で、目を背けたくなる。世界最大の辞書の皮肉な出自。植民地だったダブリンのトリニティ・カレッジがロケ地に選ばれているのも感慨深い。

 

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コンフィデンスマンJP プリンセス編

ご存じ古沢良太脚本のシリーズ映画化第2弾。2020年7月公開の前後に、第1弾から継続の三浦春馬、竹内結子の衝撃的な不幸があったけど、スクリーンの笑顔は永遠です。マレーシア・ランカウイ島リゾートのリッチ感、コンゲームの痛快もさることながら、騙すというより本当に欲しいものを差し出すダー子(長澤まさみ)の智恵に喝采。伏線回収の快感と、ミシェルの種明かしも効いてます。田中亮監督、録画で。

世界的大富豪フウ家の当主が隠し子ミシェルに全財産を譲ると遺言。ダー子は詐欺師仲間の遺児コックリ(関水渚)をミシェルに仕立てて、大芝居をうつが、反発する3きょうだい(揃って濃ゆいビビアン・スー、古川雄大、白濱亜嵐)に加え宿敵・赤星(江口洋介)まで現れて絶体絶命に。

おどおど少女から、可愛く賢いセレブへと開花する関水が鮮やか。すべて呑み込む執事の柴田恭兵、調子に乗っちゃう未亡人詐欺の広末涼子ら、芸達者な贅沢キャストが揃ってコメディを楽しんでいる感じがいい。「相棒」で個性的な弁護士役だった織田梨沙、存在感あるなあ。
主題歌はお馴染み髭男の「Laughter」。このシリーズは韓国版、中国版も製作するとか。羽ばたいてほしいものです。エンドロール後の階段落ちは意味不明だったけど…


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ミッドナイトスワン

草薙剛のトランスジェンダー役が絶賛され、日本アカデミー賞作品賞、主演男優賞などを得た話題作。ショーパブ群像の目を覆うばかりの侘しさ、底辺感と、対照的にバレエを踊る少女の美しい指先、圧倒的なみずみずしさが鮮烈だ。内田英治脚本・監督。録画で。

新宿三丁目で働く凪沙(草薙)は気が進まないまま、ネグレクトに遭った親戚の中学生・一果(服部樹咲)を預かる。当初はとげとげしているものの、徐々に互いの真情を理解。一果に群を抜くバレエの才能があると知り、凪沙はなんとかして応援したいと思うようになる…

主人公2人だけでなく、取り巻く女たちもみな生きるのが下手。オデットが象徴する深い哀しみが全編を覆って、息が詰まる。墜ちていくショーガール瑞貴(田中俊介)、酷い目に遭わされても一果が求め続ける母(水川あさみ)、息子の変わりように取り乱す田舎の母(根岸希衣)、裕福だけど世間体ばかりの親友の母(佐藤江梨子)。なかでも親友りん(上野鈴華)の運命は、その飛翔が美しいだけに衝撃だ。実年齢20歳なんですねえ。

問題はどれも根深すぎて、なんにも解決しない。それでも、殺伐とした街で凪沙と一果が肩寄せ合い、手作りハニージンジャーソテーを食べるシーンが、なんとも温かくて感動を呼ぶ。そして大詰め、成長した一果が凪沙を思わせるトレンチコートにハイヒールといういでたちでコンクールに臨む凜とした姿に、えもいわれぬ解放感がある。エンタメとして成立してます。
印象的なピアノは音楽の渋谷慶一郎。バレエ教師・真飛聖のたたずまいのモデルは、監修した千歳美香子だそうです。

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ドロステのはてで僕ら

劇団ヨーロッパ企画によるオリジナル長編映画。知的なSFの設定を、このうえなくくだらない小市民ドタバタで笑わせ、ほんわかファンタジーに至る。名作「サマータイムマシン・ブルース」の路線、好きだなあ。ご存じ上田誠の原案・脚本、山口淳太監督。録画で。

カフェのマスターが上階の自室にいて、突如モニターに映った「自分」から話しかけられる。いわくカフェにあるモニター経由で会話ができていて、そこは2分後の未来だと。では、モニター同士を合わせ鏡のようにしたら、もう少し先の未来に何が起こるかが見えるのでは?
ドロステ効果とは、画像のなかに同じ画像を延々描く「不思議な輪」のことで、語源となったオランダのドロステココアのパッケージも登場。と、聞いて、星新一のショートショート「鏡」を思い出した。未来を知ることで得をしたり、トラブルに巻き込まれたり。結局は、知らないことで開ける未来を信じたい…

シーンの繰り返しだの、虫のおもちゃのガチャガチャだの、緻密な伏線とトホホ過ぎる道具立てが、この劇団らしくて楽しい。映像は手持ちカメラ、ワンカット長回し風。「時」がテーマだけに、リアルタイム感が効果的だ。エンドロールでは愉快なメイキング映像をサービス。
気のいいマスター土佐和成と、はつらつ美容師・朝倉あきがいい呼吸。ほかに悪乗りするカフェのバイトや客たち、ちょっと間抜けなヤミ金コンビや時空警察コンビと、劇団メンバーが安定の演技だ。ロケ地は本拠地・京都の二条に実在するカフェだそうで、なんか文化祭感も。

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