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2021年12月

ノマドランド

2021年アカデミー作品賞の話題作を録画で。キャンピングカーに住み、日雇い仕事で食いつなぐ高齢者という過酷な暮らしを、淡々とドキュメンタリータッチで描いていて、なんとも重い。
閉山で廃墟になった街、主人公が眺める砂漠が、経済と福祉システムのひずみを突きつける。いったい世界に冠たる豊かな先進国は、どこで間違ってしまったのか。同時に、声高に告発するだけではない、精神の自由というものの抜きがたい哀しさを示して、胸が詰まる。脚本・監督はクロエ・ジャオ。

2017年のノンフィクションの映画化権を買い、制作、主演を務めたフランシス・マクドーマンドの、表現者としての覚悟のほどが凄すぎです。コーエン兄の奥さんで、メリル・ストリープに並ぶ大物女優さんなんですねえ。この人のドラマ「オリーブ・キタリッジ」も観てみたいかも。
ほとんどのキャストが実際の車上生活者というのも、リアルで見上げたもの。配給はサーチライト・ピクチャーズ。

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罪の声

原作は歴史に残る未解決犯罪、グリコ・森永事件で、脅迫電話の「子供の声」に焦点を当てた塩田武士のミステリ。その秀逸な着想を、しみじみ丁寧に描いた佳作だ。142分がちっとも長くない。
わけもわからず犯罪に加担してしまった者の葛藤。3人目の子供・曽根役の星野源の、優しさや恐れの繊細な表現に惚れ惚れする。才能ある人っているんだなあ。TBSドラマでお馴染み野木亜紀子脚本、土井裕泰監督。録画で。

2人目の子供・生島総一郎を演じる宇野祥平が、曽根と対照的な人生の悲惨を体現して怪演だ。一度踏み外してしまった者にとって、日本社会がいかに冷酷か。すんでのところで救い出されて、あの「罪の録音」が救いに転じる展開に涙。
もう一つの軸に、希代の劇場型犯罪に踊ったメディアの罪というものがあって、ストーリーが多角的になっているのも、いい。あのとき果たして、脅迫状が届くのを待ちわびなかったメディアがあったろうか。発生30年を機に事件を発掘していく記者・阿久津の小栗旬が、じわじわと曽根の探索に近づいていく過程のサスペンス、そして彼自身の悩み、成長の物語に引き込まれる。ちょっと猫背、独特のちゃらさがいいバランスだ。
ほかの出演陣も説得力たっぷりで、曽根の母に梶芽衣子(わけありでないはずがない)、回想の父に尾上寛之(誠実)、鍵を握る叔父に宇崎竜童(雰囲気あるなあ)、重要な証言をする板前に橋本じゅん(曲者)、総一郎の母に篠原ゆき子(ひたむき)、社会部デスクに古舘寬治(曲者2)ら。

謎解きに加え、ついには哀愁のイギリスにまで至るロードムービー的なスケール、そして凝りまくりの「昭和」再現も見事。これぞ映画の醍醐味という感じ。ちなみに犯人グループの造形は、有力な説のひとつらしいです。事件は2000年にすべての公訴時効が成立。いつか真相を語る人が現れるのだろうか…

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TENETテネット

年末は自宅で映画三昧。「ダンケルク」のクリストファー・ノーラン監督の、難解過ぎで話題だったSFを、録画で。はなから覚悟していたので案外、楽しめた。
派手なアクション、カーチェイスの一部に、時間を逆行する人や車や銃弾がまじるのが、内臓がふわっと浮くような違和感で実に面白い。いったいどうやって撮っているのやら。こういうことを発想して、実現してみせる才能というものが、まず凄い。

どうやら未来でエントロピー減少=時間逆行により大量虐殺ができる「アルゴリズム」が開発され、未来人と結託した在英ロシア人の武器商人(ケネス・ブラナーが貫禄)が現代で実行を画策、ということらしい。陰謀を阻止するための謎の組織TENETにスカウトされた、名無しのCIA工作員(ジョン・デヴィット・ワシントン、デンゼルの息子なんですね)と協力者ニール(ロバート・パティンソン)が大活躍する。
TENの回文であるタイトルが象徴するように、順行・逆行2つの時間軸(赤と青)による「挟撃」がテーマになっていて、同じシーンがまず順行、次に逆行の視点で繰り返され、頭がクラクラする。ほかにもキエフの巨大オペラハウスで、観客が全員失神しているとか、びっくりの絵が続々。

テンポが良く、情報も満載なので、演技を味わう暇がないけど、ストイックなワシントンに対し、人を食った感じのバディ・パティンソンが魅力的。そんな態度も実は謎解きになっていて、凝りまくりです。ブラナーに反発する妻キャット役のエリザベス・デビッキが、すらりとした肢体と勝ち気な表情で、目を奪う。オーストラリア出身で元バレエダンサーなんですねえ。

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