バンクシーを盗んだ男
展覧会の予習で、録画を視聴。覆面アーティスト・バンクシーが2007年、パレスチナ自治区の壁に描いた「ロバと兵士」をめぐる顛末を追う英伊合作ドキュメンタリー。たっぷり時間をかけ、世界各地で多角的に取材していて、考えさせらる秀作です。マルコ・プロセルピオ監督、ナレーションはイギー・ポップ。
壁画はメディアや観光客を呼び、イスラエルが建設した高さ8メートル、全長450メートルの分離壁の非情を、世界に訴える効果を生む。賞賛の声の一方で、現地文化への無理解から市民の反発も招く。そうこうするうち地元ビジネスマン(なんとギリシャ正教徒)はマッチョな運転手ワリドらを雇い、壁をガシガシ切り取って売却。オークションをへて、重さ4トンの「コンクリートの塊」は行方不明になっちゃう。
殺伐としたベツレヘムの光景、そこで暮す人々の肉声が重い。有名な「花束を投げる男」を、手でコシコシしてはがしかけちゃうシーンとか。芸術家はどこまで現実を理解しているのか、アートは世界情勢に対して、どんな意味を持つのか?
そんな世界各地の「落書き」の現場から遠く離れて、自宅をアートでいっぱいにしているコレクターや、数千万単位の高値で取引する華やかなオークション、ギャラリーのセレブ感がなんとも皮肉。
ゲリラ的で、ときに反権力の痛烈なメッセージを放つストリートアート。いったい誰のものなのか、描いた現場で保護されるべきか。そもそも物質価値が不確かな対象に、巨額のマネーが動くアートビジネスってどうなのよ?
答えはでないんだけど、丁寧なつくりは刺激的だ。途中で挟まるアラブのラップが、なんか新鮮~
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