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2021年5月

アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン

ソウルクイーンの魂のAmazing Graceに、泣いたー。300万枚以上のヒットアルバムとなった1972年「Amazing Grace(至上の愛)」の、2夜にわたる公開録音を追ったドキュメンタリー。ル・シネマで前日19時以降にオンライン予約して鑑賞。
これがグランマのブラックチャーチというものか。会場はロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で、アレサはクワイアをバックに、説教台とかで歌う。当時29歳、ナンバーワンヒットを持つスターなのに表情は固く、少女のよう。これはライブではない。ただ神に向かって「私はここにいる!」と声をあげ、着飾った聴衆たち(高アフロ率!)も、それぞれ自分のこととして陶酔していく。
アレサの声ってシャウトとか、ちょっと甲高い気がするけど、それくらいのパワーがゴスペルには必要なんだろうなあ。長~いフェイクは、さしずめ「りんご追分」。この才能、圧巻です。

冒頭On Our Wayで、サザン・カリフォルニア・コミュニティ・クワイアが一列になって歌いながら入場するのに、まずニヤニヤ。歌が始まってクワイアが後方で座ってるのは意外だったけど、盛り上がると立ち上がったり、踊ったり(映画「ブルース・ブラザーズ」でジェイムズ・ブラウンが、今作でも演奏されるOld Landmarkを歌うシーンで、バックを務めたそうです)。ディレクターの若いアレクサンダー・ハミルトンがガンガン踊るのは、いかにもゴスペル! 格好いいPrecious LordとYou've Got a Friendのメドレーは、ハミルトンのアイデアだったとか。

現在のクワイアスタイルを作ったというジェイムズ・クリーブランドが仕切り、ピアノや、アレサとの掛け合いを披露。ボス感満載なのに、Amazing Graceで号泣しちゃうんだよね。
2夜に登場するアレサパパの、親ばかスピーチはご愛嬌。隣に公然のパートナーで、アレサに影響を与えたというクララ・ウォードが陣取り、ラストのNever Grow Oldでは興奮したママ、ガートルード(マザー・ウォード)を取り押さえるシーンまで。家族揃って、まあ、なんというか。
バーナード・バーディ(ドラム)らバンドもドリームチームで、印象的なオルガンのケニー・ラバーはいきなりの代打ちだったとのこと。2夜の聴衆には、なんとミック・ジャガーとチャーリー・ワッツが。

この貴重な映像は、ワーナーが撮影を依頼したシドニー・ポラックの知識不足で映像と音をシンクロできず、長くお蔵入りになっていたんだけど、当時アレサを手掛けたジェリー・ウェクスラー(アトランティック・レコードのプロデューサー)の弟子にあたるアラン・エリオットが権利を買い取り、数年にわたってデジタル技術を駆使して完成。2018年のアレサ死去後になんとか遺族と合意して、公開にこぎつけたそうです。16ミリカメラ5台の映像は、ピンぼけもあって乱れているけど、それだけにリアルです。

人生は理不尽で、辛いもの。だから歌う!

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ダンケルク

難解SFのイメージが強いクリストファー・ノーラン監督が、あえてストーリーも説明も排除。言わずとしれた1940年史上最大の撤退戦を、英国側当事者が体感した恐怖、それのみに徹して描く。
とにかくセリフが少ない。なもんで、陸海空3つの視点と1週間・1日・1時間の時間軸が交錯して、正直わかりにくい。でも、無力感だけはヒリヒリ伝わって、見終わったときにはぐったり。録画で。

なんといっても陸=桟橋の二等兵トミー(フィン・ホワイトヘッド)が鮮烈。冒頭から荒廃した街をただ逃げまくるわ、軍用船は次々撃沈するわ。なんという無力感。それでもただ生き残ろうとする、無名で未熟な「その他大勢」のあがきが息苦しい。
海=民間の身で救助に向かう老船長ドーソン(マーク・ライランス、「ブリッジ・オブ・スパイ」のロシアスパイですね)と息子(トム・グリン=カーニー)、それに空=スピットファイアで撤退を援護するパイロット、ファリア(トム・ハーディ)のほうにはヒーロー感があるものの、決してハッピーとはいえない。格好いいのはフランス兵のため、と言って桟橋に居残るボルトン海軍中佐ぐらいかな。堂々ケネス・ブラナーだものね。
33万人の兵士らを、総勢6000人のエキストラと厚紙!の人形で表現したとか。ゲームっぽくない迫力がさもありなん。

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シェイプ・オブ・ウォーター

2018年アカデミー作品賞&ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞の、さえない中年女性イライザとモンスターの恋を描く大人のファンタジー。全編にあふれる「水」が、理屈抜きに本能を揺さぶる。特撮・アニメ好きメキシコ系監督ギレルモ・デル・トロの、イマジネーション力が凄い。これぞ映画、かも。日本版でもR15+だけど、お伽噺ってそういうものだよね。録画で。

「グリーンブック」に続いて1962年、米ソ冷戦下のボルチモア。イライザが深夜、掃除婦をしている秘密研究機関に、アマゾンから謎の生物が運び込まれる。巨大水槽の奥でうごめくのは、なんと半魚人! グロテスクだけど知性があって、声を持たないイライザと手話で会話し始め…
ヒロイン、サリー・ホーキンスがなんとも切ない。孤独で不器用だけど、スパイアクションもどきに活躍して、半魚人を連れ出しちゃう。愛が深まるプロセスの、目の演技に凄みも。ミュージカル好きで、空想のなかでのびのび歌い踊るシーン、好きだなあ。
隣人の時代遅れイラストレーターのリチャード・ジェンキンス、気のいい掃除婦仲間のオクタヴィア・スペンサーがコミカル。一方で、傲慢な軍人マイケル・シャノンが怖すぎます。ほとんどCG半魚人のダグ・ジョーンズは、もともとパントマイマーなんですね。佳作。

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グリーンブック

2019年アカデミー作品賞を獲得したコメディ。黒人の天才ジャズピアニスト、ドクター・ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)と、ブロンクス育ちのイタリア系用心棒トニー・ヴァレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)の心の交流が温かい。手練のピーター・ファレリー監督。録画で。

1962年ジム・クロウ法下のアメリカで、黒人ミュージシャンがあえて、2カ月の南部ツアーに出る。腕っぷしを見込まれ、運転手に雇われたのがトニー。取り澄ましたインテリのドン(なにせ自宅はカーネギーホール階上の高級アパート、イタリア語も堪能)と、喧嘩上等ほぼチンピラのトニーという水と油のぶつかり合いが、まず可笑しい。
ひ弱ながら誇りを失わず、人種とゲイ差別を耐えるドンの凛とした姿。ケネディ家ともお友達です。対するトニーは貧しい育ちで大食いで粗野だけど、強烈な反骨精神の持ち主。いよいよってとき、ためらいなく威嚇射撃しちゃうシーンが格好いい。
フライドチキンやら、旅先から妻にあてる手紙やら、アップライトピアノに置いたウィスキーグラスやら、二人が違いを乗り越え理解し合っていくプロセスの、小道具が洒落てます。もちろん全編を彩る音楽も。ショパンからご機嫌ビーバップやソウル、エピソードとして語られるナット・キング・コールまで。音楽はクリス・バウワーズ。

黒人を取り巻く苦境は、50年たっても決して払拭されていない。「悪い警官」ばかりではない、というあたり、甘い!って憤る人も多いだろうけど、エンタメとして救いがあっていい。人生は複雑。でも人は決して孤独じゃない。クリスマスはみんなで祝うものなんだ。

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フォードvsフェラーリ

新参者フォード(GT40)が王者フェラーリに挑んだ、1966年ル・マン24時間耐久レースの実話をアレンジ。高速レースシーンが今にもクラシュしそうで、特に雨の夜のシーンとか、ハラハラドキドキだ。
車好き「男の子」たちの子供っぽさと、勝負に負けても心はチャンピオンだ!というテーマが、一貫してベタながら、あっけらかんと爽やか。「ナイト&デイ」「ローガン」のジェームズ・マンゴールド監督。録画で。

乱暴だけど才能あるレーサー、ケン・マイルズを演じる怪優クリスチャン・ベールがいい。デイトナの祝勝会に照れながら参加するシーンとか、クセがあって不器用で。その夫を励ますため、何故か無茶な運転をしちゃう妻のカトリーナ・バルフがチャーミングだし、一人前に「ブレーキ」とか指摘する息子も可愛い。
重役の口出しと闘うカーデザイナー、キャロル・シェルビーのマット・デイモンは安定の演技。ケンと殴り合って心が通じ合うとか、レース中にフェラーリチームを混乱させようとちっちゃい悪戯をするとか、嫌いじゃないな。
レース界の大人の事情もテンポよく展開。ベビーブーマー向けイメージ戦略を画策するアイアコッカは、イメージ通りしたたかな造形。ヘンリー・フォード2世がフェラーリに買収を袖にされ(イタリアのプライドと対フィアット交渉術ですね)、また偉大な祖父へのコンプレックスから参戦を決断するあたり、権力者って感じです。テストコースでキャロルに同乗させられて、あまりのスピードに、いい年してビー泣きしちゃうところが可笑しかったな。

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引っ越し大名!

江戸前期、生涯7回もの国替えをさせられた実在の大名・松平直矩(及川光博)。姫路から日田へ、しかも減封の苦境で、引っ越し差配を命じられたのはコミュ障で「かたつむり」と呼ばれた書庫番・片桐春之介(星野源)。しかし彼には最強の武器、有り余る知恵と無私の心があった… 原作・脚本は土橋章宏原、監督は犬童一心。録画で。

理不尽な苦境を打開していく群像は、ひたすら爽やかで元気が出る。まず冒頭のタイトルが松竹!時代劇!で嬉しい。
頼りなさげな星野源はもちろん、周囲のキャラとキャストが絶妙のはまり具合だ。前任引っ越し奉行の娘・於蘭(高畑充希)が凛として切なく、お調子者の御刀番・鷹村源右衛門(高橋一生)の天下三槍「御手杵」遣いが格好良く、勘定頭・中西監物(濱田岳)が健気で、取り残されて農民となる山里一郎太(小澤征悦)に大人の哀愁がある。

ほかに家老・松重豊、留守居役・山内圭哉、母・富田靖子、廻船問屋・岡山天音、リストラされる藩士に飯尾和樹、ピエール瀧ら。そして敵役には次席家老・西村まさ彦、皿が大事な勘定奉行・正名僕蔵、渋い隠密・和田聰宏と豪華です。
劇中を彩る「引っ越し唄」シーンの振付・監修はまさかの野村萬斎で、まるでミュージカル。ラストの主題歌、ユニコーンの「でんでん」まで、染みます。

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清州会議

天正10年6月27日(1582年7月16日)に開かれた、織田家の継嗣問題及び領地再分配に関する会議を描く。原作・脚本・監督の三谷幸喜が、大河ドラマ好きをいかんなく発揮。しかも舞台が合戦ではなく会議、というのがいかにもです。もちろんお得意の、時代に取り残される凡人の悲哀となけなしのプライドには感動しちゃう。録画で。

登場人物は三谷ワールドのオールスターキャストで、安定のあて書きだ。なんといっても柴田勝家の役所広司の不器用さが切なく、対する羽柴秀吉・大泉洋の反骨と大局観が痛快。賢人・丹羽長秀(小日向文世)、曲者・池田恒興(佐藤浩市)、凄みある黒田官兵衛(寺島進)の、二転三転する駆け引きはサスペンスたっぷり。
健気な寧(中谷美紀)、友情の人・前田利家(浅野忠信)や使えるヤツ堀秀政(松山ケンイチ)が爽やかで、勝家を振り回しまくるお市(鈴木京香)、変人・織田信包(伊勢谷友介)に貫禄と陰影がある。織田信雄(妻夫木聡)、隠密(なんと天海祐希)、滝川一益(阿南健治)は徹頭徹尾コミカル。そして結局、松姫(剛力彩芽)の不気味さが勝つわけです。

ほかに坂東巳之助、梶原善、近藤芳正、市川しんぺー、迫田孝也らを惜しげもなく投入。ご馳走で、信忠に中村勘九郎、光秀に浅野和之、お約束・更科六兵衛に西田敏行まで…
それにしても、このとき蘭丸の染谷将太が、のちに信長を演じようとは。大河恐るべし。

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