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2021年1月

新聞記者

日本アカデミー賞最優秀作品賞を録画で。モリカケ事件など、ともすれば戯画的になりそうな安倍政権時の疑惑を素材にしつつ、抑えたタッチで上手なエンタメになっている。メディアは決して裁く者ではないけれども、関心を喚起するという重要な役割をもっている、と思わせる。
原案は官房長官記者会見の質問などで知られる望月衣塑子、脚本は2020年の翻訳劇「All My Sons」が良かった詩森ろばら、監督は藤井道人。

記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は大学設立を巡る告発ファクスを調査。告発者と目される外務省出身の官僚(高橋和也)は自殺してしまうが、その部下だった内調官僚(松坂桃李)から情報提供を受け、政府の思惑をスクープする…
政治的なしがらみがないという理由でキャスティングされた、という主演の韓国女優、シムが絶妙の表情で意思の強さを表現。父の誤報と死を引き合いに圧力をかける電話に対し、「わざわざ有難うございました」と答えるシーンが胸に迫る。外国育ちという設定でたどたどしい日本語が、もどかしさや人間らしい混乱を漂わせていい。
悩む松坂、その妻の明るい本田翼、後悔を抱える高橋の妻・西田尚美に雰囲気があり、吉岡の冷静な上司・北村有起哉や同僚の岡山天音もいい味。そして一貫して強大な敵として立ちはだかる、内調ボスの田中哲司が安定。
揺れるカメラアングルとか、黙々とPCに向かって情報操作にいそしむ内調が、終始怪しい青い照明なのは、若干鼻につくかな。ちなみに鍵になるDugway sheep incidentは1968年、ユタ州で起きた事件だそうです。

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ジョーカー

稀代のヴィラン(悪党)ジョーカーは、いかにして生まれたか。評判通り全編、主演のホアキン・フェニックスが怪演しまくる。壊れた笑い、3カ月で20キロ減量したという痛々しい体躯での、ゆっくりとしたダンスが生み出す陶酔… 圧倒的で過激な負のエネルギーが、とにかく重い。重いんだけど、目を離せない。凄い俳優だ。

残虐性だけでなく、不適合と孤独、妄想、次第に突きつけられる幼少時の悲惨な体験など、ジョーカーを形作る要素はどれも現実にあることだ。なんとか希望をもとうともがくたび、拒絶に遭う。アメコミのキャラクターを超え、隣にいてもおかしくない「人間」と気付かされて、ぞっとする。

終盤、デニーロ演じる大物テレビ司会者の末路は、豊かな者の「良識」の虚しさを象徴。そして忘れられた者たちの怒りが吹き荒れる。トランプ現象末期を知った今、なおさら切実なシーンだ。
ラストにバッドマン誕生を示唆するものの、これからの長い闘いを思わせるだけで救いはない。つくづく、こんな暗い映画、よく作ったなあ。でもスピーディーで説得力がある。実際、反社会性を糾弾されつつもヒットし、ヴェネチア映画祭金獅子賞、ホアキンはアカデミー賞主演男優賞を獲得した。監督は「アリー」のトッド・フィリップス。

「タクシードライバー」を彷彿とさせる雰囲気と、デニーロがさすがの貫禄を見せるのが、映画好きにとってはご馳走ですね。録画で。

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フォロー・ミー

2020年9月に舞台「あなたの目」(The Public Eye)を観たのをきっかけに、DVDで鑑賞。「アマデウス」のピーター・シェーファーによる1962年初演の戯曲を、「第三の男」のキャロル・リードが映画化、巨匠の遺作となった。人に生きる喜びを与えるのは人しかいない、というテーマが、温かく胸に染みる秀作。

まずもって、痩せっぽちのミア・ファローのチャーミングさが炸裂。豊かな感性を持つヤンキー妻、ベリンダにぴったりだ。
隙さえあればマカロンをぱくつく探偵クリストフォルーのトポルが、人を食った存在感で際立つ。テルアビブ生まれ、「屋根の上のバイオリン弾き」のテヴィエ役で知られる舞台俳優なんですねえ。気取ったロンドンの上流社会で、ベリンダも探偵もストレンジャーであり、無言のうちに通じ合う感じがよくわかる。妻の不貞を疑いつつその感性を誰より愛す、お固い会計士の夫チャールズはマイケル・ジェイストン。

ナショナルギャラリーとかとかのロンドン名所ロケが楽しく、ジョン・バリー(「真夜中のカーボーイ」など)の哀愁漂う主題歌「フォロー、フォロー」も印象的だ。
2010年の東宝系イベント「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」で、リクエスト4位。周防正行監督もファンで、代表作「Shall we ダンス?」で引用しているとか。

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