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2020年10月

天気の子

アニメ続きですが、新海誠監督・脚本のヒット作を録画で。
主役はとにかく、降って降って降り続ける雨だ。全編を通して、画面を埋める水の表現が素晴らしい。ツブツブの躍動とはかなさ、ドカ降りの暴力性、ひたひたと押し寄せ、覆い尽くす存在感。アジア感覚なのかなあ。
もちろん水を引き立てる、いつもながら精緻このうえない雑雑した風景、廃ビルだの室外機だのが涙モノです。

ストーリーは相変わらず、なんだか深い。大都会東京で、家族が欠落した少年少女が、周囲への気遣いよりも、力強く生き抜くことを選択する。
前半はコミカルな成長物語で、家出少年・穂高(醍醐虎汰朗)が須賀(小栗旬)と夏美(本田翼)の弱小編集プロに潜り込み、怪しいオカルト取材に走り回りながら、「晴れ女」陽菜(森七菜)とのバイトで恋を育む。ほのぼのしていて、モテモテの弟・凪(吉柳咲良)のキャラが秀逸。
しかし後半、警察に追われて始めてからはがらりと様相を変え、スケールの大きい疾走と、積乱雲を突き抜ける飛翔、エモーショナルなRADWINPSのメロディーにのみ込まれる。
ヘラヘラしていた須賀が思わず流す涙、そして何故か窓を開けて、オフィスを水浸しにしちゃうシーンに不意をつかれる。指輪とか、いろいろ背景を解釈できるんだろうけど、ここはもう「会いたい」という思いの切実さに感動。「大人になる」って、そういうことでありたい。

「君の名は。」のキャラ(神木隆之介、上白石萌音、成田凌ら)も登場。キーになる気象神社の架空の天井画は、山本二三だそうです。「ラピュタ」など美術監督の草分けで、「二三雲」というネーミングがあるとか。ははあ。

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となりのトトロ

あまりに有名なジブリ作品を、テレビで初見。今更言うことじゃないけど、名作です。
脚本・監督の宮崎駿の、子供にしか見えない世界、そしてお馴染み飛翔感が素晴らしい。意外にでかいトトロの懐の深さ、雨だれの音楽性、そしてお母さんにトウモロコシを届けようとして道に迷うメイちゃん・4歳の、心細さに胸が締め付けられる。
昭和30年代の所沢あたりがモチーフだそうです。こんな時代があったんだなあ。お父さんの声が糸井重里なのも、なんだか発見。

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スパイの妻

知人がプロデューサーを務め、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を獲得した話題作をシネコンで鑑賞。ヒッチコックのような上質のサスペンスで映画らしい感興に富み、2時間近くを全く長く感じさせない。
何と言ってもヒロイン蒼井優の、振れ幅の大きい演技が素晴らしかった! 黒沢清監督、濱口竜介・野原位・黒沢脚本によるNHK8Kドラマの劇場版。

1940年、貿易会社を経営する優作(高橋一生)は、仕事で甥の文雄(坂東龍汰)と満州に渡り、謎の女(玄理)を連れて帰国、有馬温泉に仕事を世話する。疑心暗鬼の末に真意を知った妻の聡子(蒼井優)は、大きな決断をして…。大戦前夜の港町神戸、六甲に立つ洋館のレトロモダンな雰囲気と、クラシックなセリフ回しがまず端正だ。よくぞここまで作り込んだなあ。

これは聡子が「閉じ込められたところ」から出てくる物語だ。箱から、病院から、そして山の手の奥様という平穏で贅沢な暮らしから。それにつれ、顔つきがどんどん変わっていく。秘密のフィルムを見つめる目の恐怖、覚悟を決めてオープンカーで森を疾走するシーンの開放感。可愛いだけの人形だったのに、夫のためには犠牲をいとわない、険しくも美しい女性へ。なんと鮮やかな変貌だろう。
対する優作は三つ揃いを着こなし、視野が広くて文化を愛するコスモポリタン。底が知れず、人を食った感じを演じたらピカイチの高橋が、最高のはまり役で惚れ惚れさせる。二人の二転三転する関係に的を絞ったストーリーだけに、蒼井・高橋コンビの演技力が光る。2人とも仕事の選び方が巧すぎ。加えて、夫婦を追い詰める憲兵分隊長・津森の東出昌大が、平板なんだけど狂気をはらんでゾクゾクさせる。

もちろん洒落た調度から印象的な音響まで、細部の作り込みも抜かりない。さらに映画(9.5ミリ「パテ・ベビー」とフィルム)がどんでん返しの重要な小道具になっているのが、とても洒落ている。実は「活動写真」や弁士の始まりは、神戸の鉄砲商なんだとか。素人映画にかぶさる「ショウボート」主題歌(脳天気なアメリカ!)や、夫婦が観に行く「河内山宗俊」(夭折した山中貞雄へのオマージュ)、そして金庫、アンティークなチェス盤から浜辺まで、随所に映画的感興があって楽しい。いやー、「お見事です」。

 

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