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2020年8月

アルキメデスの大戦

「ドラゴン桜」の(といってもよく知らないけど)三田紀房のコミックを、ご存知「永遠の0」の山崎貴の監督・脚本で実写化。1933(昭和8)年の軍艦建造計画をめぐり、架空の若き数学者の活躍を描く…のだけど、プラモデルおたく渾身の戦艦大和再現映画という趣。

東京帝大を放校になった櫂(架空の人物、菅田将暉)を、航空母艦建造を主張する山本五十六(舘ひろし)が海軍にスカウト。対立する設計者・平山忠道(モデルは平賀譲、田中泯)の巨大戦艦案を潰すため、安過ぎる建造費の嘘を計算力で暴けと依頼する。
櫂はありがちな空気を読まない天才キャラ。目にするもの何でも巻尺で計測し、たちどころに方程式にしてしまう。プリンストン留学直前に、山本に巨大戦艦は過信につながり、開戦を招いてしまうと口説かれ、数学で日本を救おうと承諾する。部下(柄本佑)、恋人(浜辺美波)と驚異のスピードで戦艦設計を会得するあたりは格好いいものの、海軍に雇われたくせに、軍紀の壁とやらでコストのデータが入手できず、大阪の中堅造船社長(鶴瓶さん)に泣きつく。このへんが腰砕かな。ついに鉄鋼使用量から建造費を割り出す方程式を発見、移動中から会議の席まで計算し続けて、算出に成功。政治力で押し切られそうになるが間一髪、初めて目にした平山案の欠陥を鋭く指摘して見事、使命を果たす。

ここまでは痛快なんだけど、どんでん返しが待っている。山本の狙いは開戦阻止ではなく、開戦を免れないうえはパールハーバー空爆による短期決戦、そのための空母案だった、という種明かしの後、さらに、負けを認めた平山に壮絶な覚悟を聞かされて櫂は…という、まさかの展開。
ここで冒頭、1945年4月沖縄特攻作戦での戦艦大和の無残な撃沈シーンが生きてくる。大和が二千人以上を犠牲にした一方、米軍は機動的な航空機を駆使し、パラシュートで海面に浮かぶ兵士も救っちゃう。この違い、頭のいい人たちは何をしていたのか。苦いなあ。

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女王陛下のお気に入り

ギリシャ出身ヨルゴス・ランティモス監督の、18世紀初頭の英国王室を舞台にした大奥もの。アン女王とその寵愛を競い合う女2人の、身もふたもない俗な愛憎劇なんだけど、絢爛豪華な映像美と、緩急自在、鮮烈なタッチで、観るものを引き込む。録画で。

肥満の女王、オリヴィア・コールマンが圧巻の存在感で、アカデミー賞の主演女優賞を獲得。目を背けたくなるような愚鈍さのなかに、どうしようもない孤独と後悔を切々と。
とはいえ女3人のトリプル主演の趣もあり、アビゲイルのエマ・ストーンがまた凄まじい。落ちぶれた元貴族の娘で、宮殿に呼ばれた当初ははおどおどとし、賢くて誠実なんだけど、どんどん変貌。体を張ってアンに取り入ると、ライバルのアン側近サラに毒を盛り、好きでもない貴族と結婚し、ついにはアンをないがしろにし始めちゃう。ようやく登りつめて、音楽にうっとりするシーンの高貴さがたまらない。
対するサラのレイチェル・ワイズは、終始格好よく映画を引っ張る。男装で早駆けしたり、銃を練習したり。頭が切れ、アンを操って並み居る議員を向こうに回し、対仏戦遂行と苛烈な増税を主張する。アビゲイルの奸計で失脚後、アンに詫びようと手紙をしたためるものの、プライドがまさって反故の山となるさまの切ないことよ。人の内面はかくも複雑。

ほとんどのシーンは、現存するソールズベリー伯邸ハットフィールド・ハウスで撮影。なんとエリザベス1世が育った館で、映画ロケ地として有名らしい。長廊下など重厚過ぎる内装、凝った調度と衣装の数々に目を奪われる。なんだか本物感満載。産業革命前とあって夜の暗さも印象的で、若い貴族の男どもの軽薄さが際立ちます。まだ王に権力があって、貴族たちが宮廷内で議会らしき討論をするものの、最後はツルの一声、というあたりも面白い。

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コンフィデンスマンJPロマンス編

「リーガルハイ」などの古沢良太が脚本を手掛ける痛快コンゲームドラマの劇場版。「自分でも認めていない本心につけこむ」というドラマの深みはあまりなく、これでもかという伏線、惜しげない豪華な配役で、気持ちよくだまされる。格好いい香港ロケと、主要キャスト・ジェシーの三浦春馬の切ない表情を見るのはは、今やけっこうヘビーだけど…
お話は、お馴染みのダー子たち(長澤まさみ、東出昌大、小日向文世)がロマンス詐欺ジェシーと組んで、香港の女帝ラン・リウ(竹内結子)を騙し宝石を狙うものの、ジェシーはダー子を恨むギャング赤星(江口洋介)とグルで、宝石をかっさらわれる。と思ったら、ラン・リウがダー子と組んでいて、ジェシーに騙された仲間の鈴木さん(前田敦子)も加わり、最初っからまるごと仕掛けで、赤星からカネを巻き上げる、というわけ。
新キャストでジェシーの仲間のはずがダー子を慕っちゃうモナコ(織田梨沙)が可愛い。キンタ(岡田義徳)、ギンコ(桜井ユキ)やドラマ版で標的になった小池徹平、佐藤隆太、吉瀬美智子、石黒賢がちらっと登場。さらに偽造職人で小栗旬、エンドロールの最後の最後に香港プロモーター?で生瀬勝久が怪演と、仕掛け満載です。もう1回観たほうがいいかな。

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この世界の片隅に

こうの史代の漫画を片渕須直の監督・脚本、MAPPA制作で、一部クラウドファンディングによりアニメ化。63館から500館近く、1100日以上のロングランヒットを記録し、2016年度キネ旬1位となった名作を、ようやく戦後75年の夏に録画で。泣いた~
広島に育ち、1944年に18歳で呉に嫁ぐすずの、おっとりして夢見がちな、しかし芯の強いキャラ造形が素晴らしい。声優ののんもぴったり。しっかり者の小姑にずけずけ言われながらも、受け入れられ、不自由な戦中をたくましく生き抜く。かなわない幼馴染との恋、不思議な縁の夫とのすれ違い、いたわりあい。
漂うたんぽぽの綿毛やトンボなどの細部、夢見がちなすずの想像力が羽ばたく海のうさぎ、恐ろしいはずの着色弾の色彩などが美しい。それだけに戦禍はむごく、不穏な世界情勢とあいまって胸が締め付けられる。
しかしその先にも庶民の日常はあり、孤児との触れ合いには涙涙。のんびりした運びのなかに語られないエピソードがしのばせてあったり、玉音放送の直後のすずの慟哭で植民地支配に触れていたりと、なかなか一筋縄でいかない作品のようです。
公共ホールなど国内450カ所、60以上の国・地域でも上映。音楽はコトリンゴ。

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