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ライアンの娘

アイルランドを知るシリーズ第2弾で、録画を発掘。イギリスの巨匠デヴィッド・リーンが、「戦場にかける橋」「アラビアのロレンス」で2度のアカデミー監督賞に輝いたのちに手がけた。とにかくアイルランドの自然の映像美に圧倒される。
のっけから壮大な「モハーの断崖」で、ヒロインの帽子が風に飛ばされちゃうんだもの。延々と続く浜辺の足跡(どうやって撮ってるのか?)、殺伐とした丘陵と逆光の人影、背景を彩る見事な雲、激しい嵐と大波(どうやって撮ってるのか??)…と、これがCGじゃないなんて信じられません。

お話をあえて要約しちゃうと、海辺の寒村(設定は東部・撮影は西部&南ア)で、美しい若妻ロージー(サラ・マイルズ)が駐留英国将校ドリアン(クリスファー・ジョーンズ)と許されない恋に落ち、村人に激しく指弾される。しかし年の離れた教師の夫チャールズ(ロバート・ミッチャム)が、深く傷つきながらも妻を救い出すという、大人の苦い人間ドラマ。たったこれだけと侮るなかれ、官能的な密会シーンあり、嵐のスペクタクルあり。なんと3時間以上、インターミッション付き!

決して単純な不倫ものでないのは、時代設定に1次大戦中、アイルランドが英国の植民地支配からの独立を目指して弾圧された、イースター蜂起(1916)の直後、という歴史背景があるから。古臭く閉鎖的な村で、知性や都会的な男性にどうしようもなく惹かれてしまうロージーの罪に、まず説得力がある。そんなロージーを追い詰めるのは、因習に加えて、村人の激しい反英感情、ドイツの支援による独立闘争の気運の高まりだ。
さらに将校がロージーを求めるのは、大戦の悲惨な前線のトラウマと、そこへ戻される恐怖から逃れるため。ロージーが不倫だけでなく、英国将校に内通したと断罪されるのは、実は酒場を営む父ライアン(レオ・マッカーン)が内通していて、それをかばうため。うーん、複雑だぞアイルランド。
こうした心理のアヤ、支配・被支配の関係までも、ほとんどセリフで説明せずに、俳優の表情の動きだけで緻密に描くのが凄い。今どきの感覚だとかったるいんだけど、これこそ映画にしかできない表現だなあ、と感嘆する。

とにかくロージーが色気たっぷりで、村におさまらないのは仕方ないんじゃない、と思わせる。実直なだけで退屈に見えたチャールズが、大詰めで示す勇気と哀愁が胸に迫り、だからラストの神父(トレヴァー・ハワード)の救いの一言が、余韻を残します。良心の人・神父の存在感もアイルランドならでは、かな。狂言回しでハンディを持つマイケルのジョン・ミルズは、一言も喋らずにアカデミー助演男優賞を獲得したそうです。
反乱軍登場シーンで流れる勇壮なメロディーなど、秀逸な音楽はモーリス・ジャール。

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