静かなる男
超私的アイルランドを知るシリーズ第3弾として、アイルランド気質がわかると司馬遼太郎センセイオススメのDVDを購入。ジョン・フォードが1952年に4度目のアカデミー監督賞に輝き、今もこの最多記録は破られていないという名作喜劇だ。アイルランド移民の13人兄弟の末っ子である巨匠の、自らのルーツへの愛情が画面から溢れ出てます。
自然の美しさは共通だけど、英国の屈折たっぷり「ライアンの娘」とはうってかわって、ハチャメチャでとにかく明るい。おせっかいで、おしゃべりで、隙きさえあれば呑んで歌って、喧嘩しちゃう。農村なんだけど、この人情はじゃりン子チエ感覚だな。
舞台は駅まで8マイルもある村イニスフリー(撮影は西部の村コング)。アメリカ育ちのショーン(ジョン・ウエイン)が帰郷して生家を買い戻し、近所の勝ち気な美女メアリー・ケイト(モーリン・オハラ)と恋に落ちる。生家を手に入れ損ねた、高圧的な兄ダナハー(ヴィクター・マクラグレン)がヘソを曲げ、周囲の応援でなんとか結婚にこぎつけるものの、持参金問題で揉めちゃう。実はアメリカで有名ボクサーだったショーンは、事故が元で暴力を忌避する「静かなる男」になったのだが、メアリー・ケイトを失うことには耐えられず、ついにダナハーとド派手な殴り合いになって、村は上へ下への大騒ぎ。しかし喧嘩で男同士に友情が芽生え、カラッとハッピーエンドに。
野良競馬の興奮や女たちの精一杯のお洒落ぶり、村の男たちが当然のように、新居に家具を運んでくれたりする温かさ、素朴さが微笑ましい。持参金を重視する風習は古臭いものの、妻が使用人ではない証なのだ、という現代的な意味をもたせている。大詰めで、村じゅうを駆け巡るファイトシーンのスペクタクルと、牧師も警官も止めに入るどころか、どっちが勝つか賭け始めちゃうのが、文句なく楽しい。
村上春樹のエッセイで、「僕は何かすごくいやなことがあると、ビデオで『静かなる男』を見ることにしている」と書いていて、びっくり。なるほどなあ。そしてジョン・ウェイン。実はしっかり観たことなかったんだけど、無骨で格好いいです。
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