« 2018年12月 | トップページ | 2019年6月 »

2019年5月

マイケル・コリンズ

アイルランドに関心をもってDVDを購入。独立の英雄コリンズの伝記だ。主演は長身のリーアム・ニーソンでぴったり。賢くて、特に31才で凶弾に倒れたから人気なのかな。竜馬、ゲバラのイメージか… ドキュメンタリーもついていて、ダブリン在住で「クライング・ゲーム」のニール・ジョーダン監督が史実とフィクションなんかも解説していて、勉強になる。
物語は1916年イースター蜂起の挫折から始まる。コリンズは親友ハリー・ボランド(エイダン・クイン)らと対英テロを組織し、銃弾を節約しろ、と言ったりして、リーダーシップを発揮する。このへんはまるっきりギャング映画みたい。市警のブロイ(スティーブン・レイ)の命がけの協力も得て、MI5のカイロ・ギャングを殲滅するまでは痛快なんだけど、1920年、血の日曜日事件が起きる。装甲車がクローク・パークに乗り入れ、静寂のなか選手がシュートを決めるといきなり無差別銃撃が始まる、という演出だ。
カスタム・ハウスの敗戦後、対英交渉に派遣されるあたりから閉塞感が濃くなる。盟友のはずの大統領エイモン・デ・ヴァレラ(アラン・リックマン)はビッグ・フェラーと呼ばれたコリンズの人気に嫉妬し、損な交渉を引き受けさせたのだ。嫌な奴! 1922年にかろうじて英愛条約が議会で批准され、自治領のアイルランド自由国が誕生。ダブリン城の主権引継で「700年待たされた」の名シーンがあるけど、条約に不満な反対派と泥沼の内戦に突入しちゃう。独立戦争より多くの犠牲者を出したというから、悲惨です。宗教というより階層の対立があったのかな。
コリンズは敵対してしまったハリーの死などを契機に、不毛な闘いを終結させるべく、故郷コークでのデ・ヴァレラとの会談に向かい、銃撃に倒れる。前夜に因縁の2人がニアミスし、デ・ヴァレラはコリンズの真情に涙するものの、伝令役の無名の若者が銃撃を企む、という解釈です。かつてハリーとの3角関係だった気丈な婚約者キティ(ジュリア・ロバーツ)が、結婚式のドレスを準備していた、という終幕が悲しい。
コリンズは実際、ロンドン出稼ぎ時代の金融知識で戦費を調達したり、パリッとスーツを着て自転車に乗り回したり、テロリストらしからぬ格好良さで、映画以上にモテたみたい。対英交渉では、かのチャーチルさえ4番手だった手練れたちに初めからなめられていて、「この条約は死刑宣告」と自覚するあたり、悲壮感が漂うのも女心をくすぐります。
その後のアイルランドといえば、ようやく1938年に独立国、1949年に完全な共和国化を達成したものの、北アイルランドの分離/統合を巡る苛烈な紛争が続いたのは周知の通り。映画の公開時はIRA暫定派が休戦とテロ再開の間で揺れ動いていたタイミングで、ヴェネチアで金獅子賞をとったのはそういう背景もあったんでしょう。1998年にベルファスト合意(グッドフライデー)、2005年にIRAの武装解除宣言に至ったけれど、今もBrexitで国境管理が焦点になっているし、すべては決して過去の歴史ではないんだなあ。

| | | コメント (0)

« 2018年12月 | トップページ | 2019年6月 »