シン・ゴジラ
話題の12年ぶり和製ゴジラを、「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明総監督・脚本、「進撃の巨人」の樋口真嗣監督・特技監督で。徹底して細かく、かつドライな味わいが、古風でいい。ゲームとファンタジーが幅を利かすハリウッドCGとは明確に一線を画し、安直な庶民の人間ドラマも一切排除した、危機管理シミュレーション映画だ。劇場で。
巨大で、急速に進化する「完全生物」ゴジラが突如、東京に出現。拡散を恐れた米国の主導で、国連多国籍軍は日本への核攻撃を決議する。これを何とか回避しようと、若い政治家(長谷川博己、竹野内豊、松尾諭)と官僚(高良健吾)、米大統領特使(石原さとみ)らは、ゴジラ出現を予見した学者(岡本喜八=写真)の遺稿を解読し、決死の「ヤシオリ作戦」を断行する…
なんといっても、情報をぎっしり詰め込んだ作り込みが見事だ。早口でまくしたてていた元素変換とか極限環境微生物って? ちらっと出ていた人物や組織の背景は? 消化不良というより、もう一度見たい、ディテールを語り合いたい、自分でスピンアウトを作りたい、と思わせちゃう。まさに王道カルト。
古めかしいタイトルデザインやサントラは、反核メッセージをこめたという1954年の第一作を彷彿とさせ、骨太のイメージを盛り上げる。ゴジラという存在は、何も意思表示せず、街を破壊しながら、ただ歩くだけ。駆け引き無しの不気味さが、危機に瀕した人間たちの無力加減を際立たせる。
主要登場人物の造形は、なかなか一筋縄でいかない。若い長谷川らは使命感に燃えて格好いい一方、鼻持ちならないエリートでもあり、権力への野心を隠さない。高齢の政治家たち(大杉漣、柄本明、余貴美子、平泉成)は、想定外続きの事態に対処できず、情けない一方で、大詰めでは意外に決断力、行動力を発揮して頼りになる。決して単純な二分法ではない。
シンプルに「いい役」なのは、長谷川率いる「巨災対」のメンバー(津田寛治、高橋一生、塚本晋也、そしてリケジョの市川実日子)か。各官庁のはみ出し者たちが、偏った専門知識と前例無視の言動で大活躍する、という設定は、オタク心をくすぐり、痛快だ。リアルな会議風景なども、二マリとさせる。
それにしてもキャストは総勢300人超、なんと小出恵介も、斎藤工も、古田新太、吉田鋼太郎さえもほんのチョイ役だ。贅沢だなあ。CGチームやロケ協力などの長大なエンドロールのなかで、主役ゴジラの和風モーションキャプチャーを担当したという野村萬斎の名前が、存在感を放っていた。
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