黄金のアデーレ 名画の帰還
サイモン・カーティス監督。ナチに奪われた美術品を取り戻す、という主題はジョージ・クルーニーが格好良かった「ミケランジェロ・プロジェクト」と共通だけど、こちらはヘレン・ミレン演じるたった一人の高齢女性の、凛とした闘いだ。日本橋のシネコンで。
ストーリーは若い頃ユダヤ迫害を逃れて渡米し、今は西海岸で小さい洋品店を営んでいる82歳のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)の実話。なんとクリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」を返してほしいと、オーストリア政府を訴えたのだ。高齢女性が単身、一国の政府に戦いを挑む。あなたたちにとっては「オーストリアのモナリザ」と呼ばれる至宝だとしても、「私にとっては叔母なのだ」というセリフが格好いい。
ところがマリアは訴訟のためだとしても、二度とウィーンの地を踏みたくない、と頑なだ。ウィーンに舞い戻ると、恐ろしい脱出の記憶が生々しく甦る。そして終盤には、心の奥底にしまい込んだ、真実の悲しみが吐露される。中東、欧州情勢が動揺している今このタイミングだけに、移民という立場の怒りと深い悲しみがひしひし。いい映画です。
マリアの情熱に巻き込まれ、やがては逆にマリアを鼓舞する役回りとなるのは、駆け出し弁護士のランディ(ライアン・レイノルズ)。初めは頼りないんだけど、作曲家シェーンベルクの孫という血筋のプライドに目覚めていく。マリアの毒舌との、ユーモアあふれるやり取りがとてもチャーミングだ。
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