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2015年12月

ブリッジ・オブ・スパイ

スティーブン・スピルバーグ監督、マット・チャーマンとコーエン兄弟脚本。東西冷戦でスパイ事件に巻き込まれた民間人弁護士の実話を描く感動作だ。機内で。

ジェームズ・B・ドノバン(トム・ハンクス)は保険分野のヤリ手弁護士。1957年にソ連のスパイ、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護を引き受け、国策裁判の壁と世論の批判に立ち向かって、禁固刑を勝ち取る。そして1960年。偵察機パイロットのフランシス・ゲーリー・パワーズ(オースティン・ストウェル)とアベルの交換を託されたドノバンは、極寒の東ベルリンに乗り込み、学生フレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)を含む2対1の交換を主張。CIAのホフマン(スコット・シェパード)らと対立しつつ、命がけの交渉に臨む。

前半はブルックリンハイツなどが舞台。ソ連の核に対する恐怖に煽り立てられる大衆心理と、そんな世間に対し、人権の理念こそが移民国家をまとめる軸だと語るドノバンの毅然さ。今こそ耳を傾けるべきテーマだ。
さらに後半、まさに壁が築かれつつあるベルリンの殺伐とした光景は、個人的にも2年前に訪れているだけに、胸に迫る。チェック・ポイント・チャーリーとグリーニッケ橋の緊迫の交換シーン。ドノバンとアベルは共に国家の非情を知り抜き、立場は決して交わらないが、互いの信念を認め合う関係になっていく。

個人、大衆、国家。いったいこの時から、世界はどれほど進化しているのか。苦みを残す作品でもある。

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黄金のアデーレ 名画の帰還

サイモン・カーティス監督。ナチに奪われた美術品を取り戻す、という主題はジョージ・クルーニーが格好良かった「ミケランジェロ・プロジェクト」と共通だけど、こちらはヘレン・ミレン演じるたった一人の高齢女性の、凛とした闘いだ。日本橋のシネコンで。

ストーリーは若い頃ユダヤ迫害を逃れて渡米し、今は西海岸で小さい洋品店を営んでいる82歳のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)の実話。なんとクリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」を返してほしいと、オーストリア政府を訴えたのだ。高齢女性が単身、一国の政府に戦いを挑む。あなたたちにとっては「オーストリアのモナリザ」と呼ばれる至宝だとしても、「私にとっては叔母なのだ」というセリフが格好いい。

ところがマリアは訴訟のためだとしても、二度とウィーンの地を踏みたくない、と頑なだ。ウィーンに舞い戻ると、恐ろしい脱出の記憶が生々しく甦る。そして終盤には、心の奥底にしまい込んだ、真実の悲しみが吐露される。中東、欧州情勢が動揺している今このタイミングだけに、移民という立場の怒りと深い悲しみがひしひし。いい映画です。

マリアの情熱に巻き込まれ、やがては逆にマリアを鼓舞する役回りとなるのは、駆け出し弁護士のランディ(ライアン・レイノルズ)。初めは頼りないんだけど、作曲家シェーンベルクの孫という血筋のプライドに目覚めていく。マリアの毒舌との、ユーモアあふれるやり取りがとてもチャーミングだ。

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