早稲田

一気に寒が戻った週末。

29日(土)は冷たい雨。クリーニングが来て、パンを食べ、グレージュラメセーターとグレーのコーデュロイパンツ、裏皮風コートで新しい美容室エットへ。荻窪駅から少し歩いた雑居ビルの上階だけど、お店の雰囲気は明るくゆったり。後頭部を膨らませるカットも巧くていいかな。ルミネに寄って早稲田へ。小洒落た大隈ガーデンハウスで、一部ゼミ発案、大学学部の有志同期会。40数人に専門ゼミの5人はじめ同僚、元同僚、友人の元夫、思いがけず仕事の関係先までいてびっくり。1時間半立食で、学友歌で〆。
教わった都バスでゆっくり新宿に移動。伊勢丹に寄り、早いのでカフェの順番待ちの椅子に座って一寝入り。30分ほど待って次の次の順番で席を立ち、紀伊國屋ホールへ。旦那さまと待ち合わせて、豪華キャストを観劇ししみじみ。会社の先輩をお見かけする。終わって旦那さまが見つけた雑居ビル上階のイタリアンへ。カウンターでほぼフルコースにシードル、ワインでご機嫌。

30日は日差しが明るい。寝坊してラーメンのランチ。雨に唄えばのトレーナー、緑コーデュロイパンツ、白ボアジャケットで、ボケの花などを眺めつつバスも使って母宅へ。お義兄さんに近況報告と土地の相談。石川と牛久2カ所あることに今更気づく。いやはや。お義兄さんが手続きを教えてくれることになり、ひと安心。
タクシーを呼んでソナーレへ。おやつの時間で、旦那さまがプリンも買ってきてくれて上機嫌。30分遅れてドッグセラピーが始まる。3Fのロビーで輪になり、白い綺麗なチワワの大人、4ヵ月の子供を順に抱っこさせてもらう。犬好きなのでペロペロなめられても、にっこり。ダイニングに戻ったところで、スーパーに寄って帰る。
夕方から、いよいよXperiaから旦那さまとお揃いのpixcelへ、スマホの機種変に着手。基本的にとても楽ちん。少し試行錯誤しつつ、夕食の支度と並行して作業。森川さんのレシピのオレゴン仕込み・鶏のクリーム煮、シーフードミックスと玉葱・人参・スティックブロッコリーのマヨ炒め、蒸し南瓜のおかか和え、小松菜の縮緬じゃこ和え、蕪と笹かまと葱のお味噌汁。なかなか美味。いろいろはかどって、嬉しい週末だった。

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雨ニモマケズ

Gospelイベント主催の経験をもつ飯塚冬酒の監督第2作を、Gospel仲間と鑑賞。ワンカメ長回しなどインデペンデント風味満載のまったり感で、裏方の苦労を描く。リハーサルの時間管理とかお弁当手配とか、日本Gospel界の世代間の軋轢なんかも。ふーむ。新宿Ks cinemaで。
急逝したディレクター(東ちづる)の追悼イベントの一日という設定で、可愛いスタッフ南(安野澄)が奮闘する。飄々としたディレクター山田の木村知貴、NY帰りの牧師でなんと元ラッツの山崎廣明、めげない弁当屋の笠松七海がいい味。ほかに上村侑、小寺結花ら。
Gospelの魅力はほどほど。出演クワイア役で淡野保昌、長谷川潔、木村宇志のTeamKIM、Milk&Honeyとかが登場するけど、ほとんどチラッとで、MARISA with ETERNAL LIFE(共作曲は山本裕太!)が目立ってたくらい。〆は何故か、生きづらさを抱える息子タツヤ(諏訪珠理)の宮沢賢治朗読でした…
製作・配給はGACHINCO Film。

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石岡タロー

茨城の石岡駅に、17年間通ったタローの実話を、ディープな上映会で。会場はなんと「あしたのジョー」ゆかり、江戸時代なら小塚原刑場近くの、南千住から10分弱にポツンとある泪橋ホールで、店主は写真家の多田裕美子さん。映画喫茶というけれど、昭和レトロの小さな食堂で、店内自体がまるで映画です。地元のおじちゃん、おばちゃん+イヌ好きがぎっしり。1500円+ワンドリンク制で、ハイボールに茸グラタンをつつきつつ、隣の母娘連れとおしゃべりして上映を待つ。名物餃子やキーマカレーも美味しそう。

映画は昭和30年代から50年代にかけて、はぐれた飼い主恭子(寺田藍月、渡辺美奈代!)を待ち続けたタロー(チャッピー、チャピ、ダイ)の一途な思いと、愛くるしい幼稚園児の恭子ちゃん、保護した小学校用務員(菊池均也)、校長(山口良一)らの愛情をじっくり描く。ゆったりテンポで時にベタすぎるけれど、それが嫌みでない誠実さ。
タローとともに成長していく駅員(泊太貴)はじめ、教師や町の人々の素人っぽさが微笑ましく、じんわり温かい気持ちになる。時は平成に移り、40年の時を超えた思いに涙~
霞ヶ浦近くの郊外農村風景、昭和の商店街を、鉄道車両やヴィンテージカー、看板などで丁寧に再現していて説得力がある。電器屋のお母さん、松木里菜は美し過ぎだけど! 実は石岡に親戚がいて、子供の頃から通っているのに銅像のこととか、初めて知りました。はは。

長編初という監督・脚本の石坂アツシさん、そしてメーンキャストのチャピが来てくれて大盛り上がり。チャピはタローと同じ保護犬だったけど、撮影を通じて心を開き、里親も決まったとか、制作エピソードにも感動。プログラム880円に監督のサイン、頂きました! ドッグトレーナー西岡裕記、撮影・荒井康次、温かい音楽は小松重次。
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RRR

2022年アカデミー賞で歌曲賞をとった、インドのテルグ語ミュージカルアクション。呑み会で映画好きから改めて強く勧められ、録画で。2部制で3時間、一寸の隙もなく、エキストラ数千人という感じの大スケールのシチュエーションと、荒唐無稽で痛そうな戦闘が繰り広げられて、濃い。面白いけど、見終わって正直ぐったり。

監督は「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリ。1920年代のデリー、大英帝国の徹底して横暴な総督スコット(レイ・スティーヴンソン)に立ち向かうスーパーヒーローふたりが、面倒な理屈は無し、とにかく超人的に暴れまくる。
かたや部族の少女救出のため、総督の大邸宅に乗り込む野生児ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr.)。なんと野獣たちを武器にしちゃうし、むち打ちされても朗々と歌って民衆を扇動しちゃうし、どんな大けがも謎の薬草でたちどころに治しちゃうし、いちいち痛快だ。総督の姪の金髪美人に恋しちゃうお茶目さも。
かたや独立運動の拠点に武器を届けるため、正体を隠し警官としてのし上がった男前ラーマ(ラーム・チャラン)。登場でいきなり1対5000人ぐらいの大乱闘。意外に読書家だったり、大義のためいったんは親友ビームを捕えて苦悩したり、なんかストイックで格好いい。ついには、なんと英雄ラーマ神の化身に! このふたりがいたら、武器いらないじゃん。

初対面のふたりがアイコンタクトで息を合わせ、列車事故から少年を救い出しちゃうとか、生身の破天荒なアクションに目を奪われるけど、やっぱり圧倒的に楽しいのは中盤の邸宅のパーティーシーン。「ナートゥ・ナートゥ(Naatu Naatu)」にのって二人が踊りまくり、イギリス人をぎゃふんと言わせる。なんと2021年にキーウで撮影したとか。
もちろん大フィクションなんだけど、いちおう実在の革命指導者がモデルと知って、またびっくり。タイトルは「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」のこと。エンドロールのダンスの背景に次々登場するどでかい肖像は、すべて独立の闘士たちだそうで、ナショナリズムぶりもインパクト大です。

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温泉シャーク

クラウドファンディング1000万円突破というサメ映画。ちょっと縁があって足を運んでみた。渋谷の映画館で。
夏になるとWOWOWでサメ映画特集があるのには気づいていたけれど、観ようとは思っておらず、けっこう観客が入っているのにまずびっくり。おタクっぽく脱力系の笑いが穏やかだ。
1時間強、全編まあ、B級感が満載。「暑海市」で温泉客がサメに襲われる事件が相次ぐ。獰猛で妨害電波まで発する古代サメの大群が、なんと地中を自在に動き回っていた! あれよあれよとパニック、全市破壊命令、潜水艇でボスザメと対決…と、すべてが徹底的にチープ。
学生映画のような演技がまた強烈。やせっぽちでやたら発砲する警察署長(金子清文)、サメ退治で成長していく丸顔のダメ市長(藤村拓矢)、同行する可愛いサメオタク学者(中西裕胡)…。いちばん謎なのはほとんど口をきかず、超人的な身体能力でサメに立ち向かうマッチョ(椎名すみや)。いやはや。
脚本・監督の井上森人は、岡本太郎現代芸術賞にコントユニット「そんたくズ」で入選、自主怪獣映画選手権で優勝経験あり、とか。ますますわからない。テレビコメンテーターで熱海在住の巻上公一登場。

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トノバン 音楽家、加藤和彦とその時代

お洒落で、才人で、飄々として、きら星のようなミュージシャンたちに影響を与えた加藤和彦の足跡を、ゆかりの人物へのインタビューでつづる。書籍「安井かずみがいた時代」で関心を持っていて、劇場へ足を運んだ。今は亡き高橋幸宏の言葉が、制作のきっかけだったとか。さまざまなドラマがある人だけど、本作は特に音楽家としての先進性が前面に出ていて、心地が良い。相原裕美監督。

70年代のサディスティック・ミカ・バンドは今聴いても格好いい。60年代に社会現象を起こしたフォークソングや、ミカ・バンド解散後の爛熟したヨーロッパ3部作などは正直、個人的にそう好みではない。だけど成功してもその場所にとどまらず、次々と多様なジャンルで創作し続けた才能に、改めて驚嘆する。
高中正義が「帰って来たヨッパライ」のイントロの新規性を解説。そうかー、コミックソングだと思っていたけど。

いまでいうインディーズから深夜ラジオのオンエアをきっかけにオリコン史上初のミリオンヒットをたたき出し、海外ミュージシャンに負けないライブを実現するためPA会社を設立。ミカバンドでは国内より先にロンドンで注目され、制作の過程ではマルチテープを思い切ってばっさり切っちゃうとか、常に一歩先を行き、時代を切り拓いていくエピソードにワクワクする。


お洒落伝説にはこと欠かない。中学生から「メンズクラブ」を読み、高校生のとき日本で2,3番目にボブ・ディランのアルバムを個人輸入して、すぐギターでコピーした。祖父のような仏師になろうと京都の仏教大学に進む一方、メンクラにメンバー募集の投稿をしてバンドを結成。ミュージシャンとしての地位を確立してからは、アルバム制作のたびにまず、アラバマだのバハマ、ベルリン、パリだので家を借りちゃう。愛妻ミカにねだられれば高額なロールスロイスを購入し、美食家としても一流…

そんな華やかさの一方で、証言の端々にどこか寂しさもつきまとう。ミカはビートルズも手がけたプロデューサー、クリス・トーマスの元へ走り、その傷心を救った大きな存在、ズズ(安井)も病で失う。多くのミュージシャンに尊敬されながら、朝妻一郎、新田和長、松山毅らとは徐々に疎遠になっていったらしい。日本人ばなれした長身のせいか、学生時代からいつも今いる場所に違和感を覚えていたよう、と語る盟友きたやまおさむの、最期を巡る言葉が悲痛だ。

多くのレコーディングに参加した坂本龍一(多分電話の録音)や、「結婚しようよ」でプロデュースを受けた吉田拓郎(ラジオ番組かな)らの証言音声が貴重だ。個人的にはサイクリング・ブギで弾ける竹内まりやの映像にびっくり! 一緒に音楽番組を持っていたとは。

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アメリカンフィクション

評判をきいてアカデミー賞脚色賞受賞作を録画で。「不適切にもほどがある!」じゃないけれど、政治的正しさに対する風刺が満載の、ちょっと知的なコメディで面白い! どこまでがフィクションかわからなくなる幻惑的な、でもけっこう爽やかなラストも凝っている。コード・ジェファーソンはドラマ版「ウォッチメン」などの脚本家で長編初監督だし、オライオン配給だったけど日本では劇場公開無しで、アマゾンプライムの独占配信だし、と、いろいろ話題です。

主人公の純文学作家セロニアス・「モンク」・エリソン(ジェフリー・ライト)はインテリ中年男。高踏的な自作は鳴かず飛ばずなのに、白人がイメージする黒人の「リアル」(貧困と犯罪)を描いた小説はヒットして、いたくプライドが傷つく。病院で執拗に金属探知機をあてられるとか、差別は相変らずなのに、副業の大学で南部文学を語るのにNワードを使っただけで責められる。
モンクが頭にきて、偽名でベタな黒人小説「My Pafology」(Pathologyの黒人風言い回し)を出版社に送りつけたら、なんと大ウケ。タイトルをFワードにしろと無理難題をふっかけるけど、ますます受けて、映画化のオファーまで…というドタバタ。想定外の好反応に、いちいちがっくりくるモンクがチャーミングだ。
あげくモンクが審査員に起用された文学賞で、Fワードの小説が受賞しちゃって、著者としてスピーチをするハメに。表面的な評価しかできない文学界の裏、エンタメを差別の免罪符にしている世間の欺瞞を、存分にからかってます。
さりげなく壁にゴードン・パークスの写真「DollTest」(1940年代のクラーク夫妻の心理テスト)が掛かっていたり、偽名は「キレる黒人犯罪者」の代名詞スタッガー・リーのもじりだったり。敬語を使い、ランチで思わず上品な白ワインを注文すると「黒人らしくない」と驚かれるとか、小ネタ満載(たぶんわからないネタもあるんだろうなあ)で笑える。笑いながら、自分も世間のひとりだなあ、とちょっと反省。

原作はパーシヴァル・エヴェレットの2001年の小説「イレイジャー」。ラストのメタ構造などは映画オリジナルだそうで、原作の悲惨な要素を抑え、ヌルくなっているという批判もあるらしい。でも隣の弁護士コラライン(エリカ・アレクサンダー)との不器用な恋、老母の介護やゲイの兄弟(スターリング・K・ブラウン)との葛藤、妹リサの遺書のシーンなどなど、ドラマ要素が素直に染みて、巧いと思うな。
モンクがFワード小説を書く過程も面白い。書いているシーンがリアルに立ち現れ、登場人物が作家に「この話に意味があるか?」と問いかける。たとえ悪ふざけで書いたとしても、なにかしら作家の心情が投影される、創作の深淵。

ちなみに映画化を持ち込む胡散臭いプロデューサーの「『オスカー狙いの』というセリフがあり、そういう作品のオスカー受賞は初」という説もあるそうで、「社会派ジョーダン・ピールなどエレベイテッドへのあてこすりは映画ならではのエッジ」(宇多丸)とも。モンクだけにジャズのサウンドトラック(ローラ・カープマン)もお洒落。

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オッペンハイマー

作品賞はじめ、アカデミー賞を席捲したクリストファー・ノーラン監督作。社会状況というより、原爆の父の内面をぐいぐい掘り下げていく。
全編を通じて不穏な「音」が怖い。特に戦勝祝賀会での、賞賛の足踏みの響きがオッペンハイマー(キリアン・マーフィーが熱演)の心をさいなみ始めるあたり、映画ならではの表現だ。
被爆国日本の運命、いまも続く軍拡競争(連鎖反応=チェーンリアクションがキーワード)を思えば、3時間、胸がざわつきっぱなしで、強烈だけど、決して気持ちの良い映画体験ではない。ユニバーサルの配給権を持つ東宝東和ではなく、ビターズ・エンド配給といういわく付きでもある。シネコンで。

ストーリーはロスアラモス初代所長として原爆開発に突き進む経緯と、1954年に赤狩りの嵐で研究生命を絶たれちゃうオッペンハイマー事件を行き来する(カラーがオッペンハイマー視点、モノクロがストローズ視点)。練り上げられた複雑な構成で、3時間、緊張が続いて効果的だ。
主題であるオッペンハイマーの造形は、根っこでは政治や軍に距離をおきたいピュアさを持つ。一方で、不倫の泥沼、尊大な態度など、他者につけこまれがちな弱さ、醜さも盛りだくさんで、その描写は容赦ない。特に若き日の英ケンブリッジ大での林檎のエピソード、独グッティンゲン大に転じてからの天才ハイゼンベルクとの遭遇は、原点としてのコンプレックスや焦りを印象づける。原爆開発の大国家プロジェクトを率いたとき、ユダヤ人だけにナチスを止める使命感があったのは確か。でも、それだけではなかったのではないか。
ロスアラモス建設の壮大さ(制作費1億ドル!)、人類初の核実験トリニティのシーンには高揚感があるものの、戦後、オッペンハイマーが水爆開発に反対してからは、トルーマン(ゲイリー・オールドマン)に「泣き虫」とばっさり切り捨てられ、野心満々の原子力委員長ストローズ(アイアンマン!のロバート・ダウニーJr)にぐいぐい追い詰められてと、観ていて息苦し過ぎ。

この息苦しさの本質は、オッペンハイマーのダメダメな造形や陰湿な人間関係ではなく、やはり人類史を変えてしまう学問というものの宿命なのだろう。繰り返される破滅の可能性は「ゼロではない」。でも誰かが知ってしまったら、もうなかったことにはできない。
オッペンハイマーは晩年、フェルミ賞を受賞するんだけど、その物理学者フェルミはフェルミパラドクス(宇宙人はなぜ人類に接触しないのか)を唱え、宇宙スケールで知性というものを考察していた。人類に、知を制御する知恵はないのか? 量子物理学を受け入れず、時代遅れともくされた偉人アインシュタイン(トム・コンティが飄々と、「神はサイコロを振らない」ですね)がその苦悩、悔恨を理解し、オッペンハイマーと共有していた、という仕掛けだけが救い。あの重要シーンが、ちょっとひんやりした屋外なのは、好みだな~

ちなみに女性たちの造形も華どころか、とにかく暗くて、妻キティのエミリー・ブラントは、アル中になったりして存在感たっぷり。不倫相手ジーンのフローレンス・ピューにいたっては圧力が強烈。将校グローブスのマット・デイモン(おっちゃんになったな)、恩師ニールス・ボーアのケネス・ブラナーだけはどんな映画でも、いいもんなのがお約束。あと、商務長官就任の公聴会で、ストローズの陰謀をばらしちゃうフェルミの助手・ヒル博士のラミ・マレック(あのフレディですね)も痛快だった。最後に一度も登場しないケネディが美味しいところをもっていくのは、ハリウッドらしいなあ。

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カラーパープル

ゴスペル仲間で話題の新作を鑑賞。1900年代前半の南部ジョージア州に生きた黒人女性を描いていて、もちろんストーリーはひどい差別、苦難の連続だ。でも、むしろ女優たちの肉感的な生命力、野太さが前面に出て、圧倒される。シネコンで。

監督は新鋭ブリッツ・バザウーレ。主人公セリー(ブロードウェイ版でも同役を演じたファンテイジア・バリーノ)は父に虐待され、10代で結婚させられたミスター(コールマン・ドミンゴ)にも奴隷のような扱いを受ける。唯一の支えだった妹ネティ(リトルマーメイトのハリー・ベイリーが可愛い)とも引き離され、なんとも悲惨。
でも反骨精神の塊であるソフィア(舞台版にも出たダニエル・ブルックス)が、セリーの諦念を揺るがしていく。お調子者の義息ハーポ(コーリー・ホーキンズ)と結婚、夫にも偉い白人にも向かっていく気骨が凄くて、刑務所にも入っちゃう。さらに、はすっぱでミスターの愛人だったんだけど、夢をかなえたキラキラのブルース歌手シュグ(ベテランのタラジ・P・ヘンソン)にひかれ、勇気とガッツに目覚めていく…
ほかに、ハーポの恋人になる歌手スクイークにグラミー賞歌手のH.E.R.、シュグの夫のピアニスト・グレイディには、ちらっとジョン・バティステ!

曲とダンスがご機嫌で、音楽は「グリーンブック」「リスペクト」などのクリス・パワーズ、振付は「ドリームガールズ」などのファティマ・ロビンソン。
日曜礼拝のゴスペル「Mysuterious ways」はタメラ・マンがリード。ソフィアの怒りを重々しく繰り返す「Hell,No!」、ハーポが沼地に家を建てるシーンの「Workin」はダンスが豪快。ビックバンドにのせ、町の人々がシュグの凱旋を噂する「Shugu avery」、そのシュグが酒場で盛り上がる際どい「Push Da Button」や、ラグタイム風にセリーを勇気づける「Miss Celoes Blues(Sister)」。やがて洋品店で成功したセリーが歌い上げる「Im Here」、ラストで大人になったネティ役のシアラも歌うバラード「The Color Purple」が感動的だ。私のイチオシはクインシーとアンドレ・クラウチによる、奔放なシュグが牧師の父と和解するデュエット「Maybe God is Tryin to Tell You Somethin」!

巨木など南部の風景は、重いけれど美しい。夢のような映画の世界に飛び込むシーンなどには爆発力がある。

作品自体に歴史があって、原作は1983年ピリッツアー賞を受けたフェミニスト、アリス・ウォーカーのノンフィクション。1985年の映画版を監督したスティーヴン・スピルバーグやソフィア役だった司会者オプラ・ウィンフリー、音楽を担当したクインシー・ジョーンズが、本作では製作に回っている。なんと前作で主演し、映画デビューを飾ったウーピー・ゴールドバーグも、助産師役でちらりと登場。その後、2005年にブロードウェイでミュージカル化。今回はその映画版リメイクだ。ストーリーも音楽も、ブラックカルチャーの思いが詰まっている感じ。

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PERFECT DAYS

「ベルリン・天使の詩」のヴィム・ヴェンダースが監督、知人がエキストラで参加したと聞いて、劇場に足を運んだ。役所広司が東京の片隅に生きる、無口で丁寧なトイレ清掃員を好演。晴れでも雨でも、毎朝空を見上げて微笑む。孤独でワンパターンで清々しい日々を、お説教臭くなく描いて、心に染みる名作だ。1300円。
ワゴン車で聴く中古カセットはルー・リード、ザ・キンクス、ニーナ・シモン! ランチに神社の隅のベンチでサンドイッチを食べつつ、フィルムカメラで木漏れ日を録る。後悔も怒りもある。それでも自ら選びとった幸せのかたち。
脇がまた贅沢だ。気のいい同僚に柄本時生、入れ込んでいる相手に個性派アオイヤマダ、踊るホームレスに田中泯、家出してくる姪にみずみずしい中野有紗、週末に通うバーのママに石川さゆり、その元夫に三浦友和。ほかにも中古レコード屋店員が松居大悟、カメラ店主人が柴田元幸、ひとこと書評が渋い古本屋店主が犬山イヌコ、「朝日のあたる家」を伴奏するバー常連があがた森魚…
制作のきっかけは、渋谷区17か所の公共トイレを刷新する「THE TOKYO TOILET」を主導した柳井康治ファーストリテイリング取締役と電通の高崎卓馬が、ヴェンダースに短編PR動画を依頼したこととか。主人公の名「平山」をはじめ小津安二郎へのオマージュがにじむ。製作は Master Mind、スプーン、ヴェンダース・イメージズ。カンヌでは役所が日本人俳優として19年ぶり2人目の男優賞を受賞。

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