新聞記者

日本アカデミー賞最優秀作品賞を録画で。モリカケ事件など、ともすれば戯画的になりそうな安倍政権時の疑惑を素材にしつつ、抑えたタッチで上手なエンタメになっている。メディアは決して裁く者ではないけれども、関心を喚起するという重要な役割をもっている、と思わせる。
原案は官房長官記者会見の質問などで知られる望月衣塑子、脚本は2020年の翻訳劇「All My Sons」が良かった詩森ろばら、監督は藤井道人。

記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は大学設立を巡る告発ファクスを調査。告発者と目される外務省出身の官僚(高橋和也)は自殺してしまうが、その部下だった内調官僚(松坂桃李)から情報提供を受け、政府の思惑をスクープする…
政治的なしがらみがないという理由でキャスティングされた、という主演の韓国女優、シムが絶妙の表情で意思の強さを表現。父の誤報と死を引き合いに圧力をかける電話に対し、「わざわざ有難うございました」と答えるシーンが胸に迫る。外国育ちという設定でたどたどしい日本語が、もどかしさや人間らしい混乱を漂わせていい。
悩む松坂、その妻の明るい本田翼、後悔を抱える高橋の妻・西田尚美に雰囲気があり、吉岡の冷静な上司・北村有起哉や同僚の岡山天音もいい味。そして一貫して強大な敵として立ちはだかる、内調ボスの田中哲司が安定。
揺れるカメラアングルとか、黙々とPCに向かって情報操作にいそしむ内調が、終始怪しい青い照明なのは、若干鼻につくかな。ちなみに鍵になるDugway sheep incidentは1968年、ユタ州で起きた事件だそうです。

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ジョーカー

稀代のヴィラン(悪党)ジョーカーは、いかにして生まれたか。評判通り全編、主演のホアキン・フェニックスが怪演しまくる。壊れた笑い、3カ月で20キロ減量したという痛々しい体躯での、ゆっくりとしたダンスが生み出す陶酔… 圧倒的で過激な負のエネルギーが、とにかく重い。重いんだけど、目を離せない。凄い俳優だ。

残虐性だけでなく、不適合と孤独、妄想、次第に突きつけられる幼少時の悲惨な体験など、ジョーカーを形作る要素はどれも現実にあることだ。なんとか希望をもとうともがくたび、拒絶に遭う。アメコミのキャラクターを超え、隣にいてもおかしくない「人間」と気付かされて、ぞっとする。

終盤、デニーロ演じる大物テレビ司会者の末路は、豊かな者の「良識」の虚しさを象徴。そして忘れられた者たちの怒りが吹き荒れる。トランプ現象末期を知った今、なおさら切実なシーンだ。
ラストにバッドマン誕生を示唆するものの、これからの長い闘いを思わせるだけで救いはない。つくづく、こんな暗い映画、よく作ったなあ。でもスピーディーで説得力がある。実際、反社会性を糾弾されつつもヒットし、ヴェネチア映画祭金獅子賞、ホアキンはアカデミー賞主演男優賞を獲得した。監督は「アリー」のトッド・フィリップス。

「タクシードライバー」を彷彿とさせる雰囲気と、デニーロがさすがの貫禄を見せるのが、映画好きにとってはご馳走ですね。録画で。

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フォロー・ミー

2020年9月に舞台「あなたの目」(The Public Eye)を観たのをきっかけに、DVDで鑑賞。「アマデウス」のピーター・シェーファーによる1962年初演の戯曲を、「第三の男」のキャロル・リードが映画化、巨匠の遺作となった。人に生きる喜びを与えるのは人しかいない、というテーマが、温かく胸に染みる秀作。

まずもって、痩せっぽちのミア・ファローのチャーミングさが炸裂。豊かな感性を持つヤンキー妻、ベリンダにぴったりだ。
隙さえあればマカロンをぱくつく探偵クリストフォルーのトポルが、人を食った存在感で際立つ。テルアビブ生まれ、「屋根の上のバイオリン弾き」のテヴィエ役で知られる舞台俳優なんですねえ。気取ったロンドンの上流社会で、ベリンダも探偵もストレンジャーであり、無言のうちに通じ合う感じがよくわかる。妻の不貞を疑いつつその感性を誰より愛す、お固い会計士の夫チャールズはマイケル・ジェイストン。

ナショナルギャラリーとかとかのロンドン名所ロケが楽しく、ジョン・バリー(「真夜中のカーボーイ」など)の哀愁漂う主題歌「フォロー、フォロー」も印象的だ。
2010年の東宝系イベント「午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本」で、リクエスト4位。周防正行監督もファンで、代表作「Shall we ダンス?」で引用しているとか。

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鬼滅の刃 無限列車編

ついに観ました「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」。興行収入300億突破で日本歴代1位となった大ヒットを、アニメの再放送で予習して。原作吾峠呼世晴、プロデューサー高橋祐馬ら、ufotable(ユーフォーテーブル)脚本、外崎春雄監督。

うなされそうな鬼の造形の恐ろしさとか、人食いの残虐シーンとかは、アニメでだいぶ免疫ができていて、緻密すぎる絵の美しさ、炭治郎の無私の優しさが際立つ。
アニメで感心した「生まれながらの鬼はおらず、死に瀕して贖罪の思いを抱く」という、王道ジャンプを超える「救済」の要素は健在。加えて、煉獄さんの母から受け継いだ壮絶な使命感、後進に希望を託して笑いながら力尽きる姿に、前評判通り、思わず涙。不死身でないからこそのヒーロー。
畳み掛ける「全集中」の迫力と、キャラの過去に迫る静かな回想シーンとの、緩急のリズムが感情を揺さぶるのは、音響がいい劇場ならではですね。日輪の耳飾りがヒラヒラするとか、細部の動きも目を引く。

鬼の仕掛ける罠が、「夢の世界への逃避」という設定は、人間心理の闇を突きつけて、相変わらず深いなあ。そして炭治郎の無意識領域の、ウニ塩湖並みに広々と曇りない風景、ラスト煉獄さんを失ったときの大粒の涙が、胸に染みる。
ストーリーとしては完結したコミックス23巻中、8巻の途中までしか描いておらず、伏線だらけ。まだまだ楽しめそうです…

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パラサイト 半地下の家族 モノクロVer.

ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ主演、アジア映画初のアカデミー作品賞作&韓国映画初パルムドール作をモノクロバージョンで。ブラックコメディ・スリラー、って紹介だけど、ホント、あらゆる映画的楽しみがぎゅっと詰まってて、高評価がうなづけた。録画で。

前半はテンポの良いスティング。半地下に住む全員プーのキム一家が、息子(チェ・ウシク)、娘(パク・ソダム)の策略により、あれよあれよと父(ガンホ)、母(チャン・ヘジン)まで、IT長者パク夫妻(イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン)の豪邸に職を得る。留守の間に上がりこんで、嵐の庭を眺めながら、酒盛りに羽目を外すまでは痛快だ。
そこへ追い出した家政婦(イ・ジョンウン)が訪れ、なんと豪邸の地下に夫(パク・ミョンホン)も隠れ住んでいたとわかると、事態は一転ホラーに。互いの生き残りをかけた壮絶な乱闘、その後の脱出劇はアクション満載だ。なんとか半地下の自宅にたどり着くと、豪雨で下水が氾濫。胸まで迫る浸水シーンのスペクタクル、高台から押し寄せる水の暴力の圧倒的な残酷さ、絶望感。翌朝は台風一過、何も知らないパク夫妻は晴れ晴れと、ガーデンパーティの準備にキム一家を呼び出しちゃう。避難所で雑魚寝との、なんという境遇の落差か。「地下派」の暗い情念がついに爆発し、パーティーはタランティーノばりの大惨事に…

カラー版をみてないのだけど、モノクロだから終盤の血糊のエグさは控えめで、むしろ光の表現が際立つ印象。息子が初めて高台の高級住宅街を訪れるシーンや、広々した豪邸のリビングに踊る陽光が素晴らしい。
もちろん俯瞰を多用した、振れ幅の大きいカメラワークにも引き込まれる。高低差が端的に表す貧富がリアルで、目が離せない。

貧しいなりに、したたかに生き抜いていたガンホやチェ・ウシクが後半、どんどん表情が暗くなっていくのがシリアスだ。能天気で騙されやすい妻チョ・ヨジョンは、戸田恵梨香似でチャーミング。お嬢様のチョン・ジソも目が大きくて可愛い。それにしてもつくづく、知らないってことは罪深いです。
たまたま「天気の子」と続けて観たので、水の位置づけの差は面白かったな。怒りと諦念と、と思っちゃうのは、ステロタイプかもしれないけど。

追記:後日、カラー・吹き替え版も録画で。ラストのファンタジーの切なさが、より胸に迫る印象。凄い映画です。

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天気の子

アニメ続きですが、新海誠監督・脚本のヒット作を録画で。
主役はとにかく、降って降って降り続ける雨だ。全編を通して、画面を埋める水の表現が素晴らしい。ツブツブの躍動とはかなさ、ドカ降りの暴力性、ひたひたと押し寄せ、覆い尽くす存在感。アジア感覚なのかなあ。
もちろん水を引き立てる、いつもながら精緻このうえない雑雑した風景、廃ビルだの室外機だのが涙モノです。

ストーリーは相変わらず、なんだか深い。大都会東京で、家族が欠落した少年少女が、周囲への気遣いよりも、力強く生き抜くことを選択する。
前半はコミカルな成長物語で、家出少年・穂高(醍醐虎汰朗)が須賀(小栗旬)と夏美(本田翼)の弱小編集プロに潜り込み、怪しいオカルト取材に走り回りながら、「晴れ女」陽菜(森七菜)とのバイトで恋を育む。ほのぼのしていて、モテモテの弟・凪(吉柳咲良)のキャラが秀逸。
しかし後半、警察に追われて始めてからはがらりと様相を変え、スケールの大きい疾走と、積乱雲を突き抜ける飛翔、エモーショナルなRADWINPSのメロディーにのみ込まれる。
ヘラヘラしていた須賀が思わず流す涙、そして何故か窓を開けて、オフィスを水浸しにしちゃうシーンに不意をつかれる。指輪とか、いろいろ背景を解釈できるんだろうけど、ここはもう「会いたい」という思いの切実さに感動。「大人になる」って、そういうことでありたい。

「君の名は。」のキャラ(神木隆之介、上白石萌音、成田凌ら)も登場。キーになる気象神社の架空の天井画は、山本二三だそうです。「ラピュタ」など美術監督の草分けで、「二三雲」というネーミングがあるとか。ははあ。

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となりのトトロ

あまりに有名なジブリ作品を、テレビで初見。今更言うことじゃないけど、名作です。
脚本・監督の宮崎駿の、子供にしか見えない世界、そしてお馴染み飛翔感が素晴らしい。意外にでかいトトロの懐の深さ、雨だれの音楽性、そしてお母さんにトウモロコシを届けようとして道に迷うメイちゃん・4歳の、心細さに胸が締め付けられる。
昭和30年代の所沢あたりがモチーフだそうです。こんな時代があったんだなあ。お父さんの声が糸井重里なのも、なんだか発見。

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スパイの妻

知人がプロデューサーを務め、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を獲得した話題作をシネコンで鑑賞。上質のサスペンスで映画らしい感興に富み、2時間近くを全く長く感じさせない。
何と言ってもヒロイン蒼井優の、振れ幅の大きい演技が素晴らしかった! 黒沢清監督、濱口竜介・野原位・黒沢脚本によるNHK8Kドラマの劇場版。

1940年、貿易会社を経営する優作(高橋一生)は、仕事で甥の文雄(坂東龍汰)と満州に渡り、謎の女(玄理)を連れて帰国する。疑心暗鬼の末に真意を知った妻の聡子(蒼井優)は、大きな決断をして…。大戦前夜の港町・神戸、六甲に立つ洋館のモダンな雰囲気と、クラシックなセリフ回しがまず端正だ。よくぞここまで作り込んだなあ。

これは聡子が「閉じ込められたところ」から出てくる物語だ。箱から、病院から、そして山の手の奥様という平穏で贅沢な暮らしから。それにつれ、顔つきがどんどん変わっていく。秘密のフィルムを見つめる目の恐怖、覚悟を決めてオープンカーで森を疾走するシーンの開放感。可愛いだけの人形だったのに、夫のためには犠牲をいとわない、険しく美しい女性へ。なんと鮮やかな変貌。
対する優作は三つ揃いを着こなし、視野が広くて文化を愛するコスモポリタン。底が知れず、人を食った感じを演じたらピカイチの高橋が、最高のはまり役だ。二人の二転三転する関係に的を絞ったストーリーだけに、蒼井・高橋コンビの演技力が光る。加えて、夫婦を追い詰める憲兵分隊長・津森の東出昌大が、平板なんだけど狂気をはらんでゾクゾクさせる。

映画(9.5ミリ「パテ・ベビー」とフィルム)がどんでん返しの重要な小道具になっているのが、とても洒落ている。実は「活動写真」や弁士の始まりは、神戸の鉄砲商なんだとか。素人映画にかぶさる「ショウボート」主題歌(脳天気なアメリカ!)や夫婦が観に行く「河内山宗俊」、そして金庫、アンティークなチェス盤から浜辺まで、随所に映画的感興があって楽しい。いやー、「お見事です」。

 

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ザ・コミットメンツ

昨夏の思い出、ダブリンが舞台の映画をDVDで。7月末に亡くなったアラン・パーカー監督作。「ミッドナイト・エクスプレス」「ミシシッピー・バーニング」と社会派で怖いイメージだったけど、「フェーム」とか音楽作品もあって、本作はその系譜ですね。
さして取り柄もない若者がソウルバンドを結成し、地元記者とかにちょっと注目されるけど、喧嘩別れしちゃう、というだけの、青春群像ドラマなんだけど、とにかくお下劣、単細胞なやり取りが、なんだか微笑ましくて切ない。いい映画です。

主要なバンドメンバーは、膨大なオーディションで選んだという地元ミュージシャンだけあって、まずモータウンサウンドのライブシーンがご機嫌。ストーリーでも鍵になるウィルソン・ピケットの「ムスタングサリー」やらアル・グリーン「テイク・ミー・トゥ・ザ・リヴァー」やら… 太っちょヴォーカルのアンドリュー・ストロング(10代には見えません)がエモーショナルだし、女性コーラス(必ず3人!)のアンジェリナ・ボールも色っぽい。
演技は素人だからこそ、ドキュメンタリー風になる。ミュージシャンだけど歌わずに主役のマネジャーを演じたロバート・アーキンズが、雰囲気があって実にいい。2代目ドラマーのディヴ・フェネガンは、素顔も役そのままの暴れん坊みたいだし(おまけのメイキング映像で、オーディションなのに監督に食ってかかる意味不明シーンが傑作!) ほかに虚実入り交じった曲者ベテラントランペッターにジョニー・マーフィー。

もちろんただの青春音楽ストーリーではありません。背景にある、ダサくて貧しい街の雰囲気が、絶妙の深みになっている。さすがアラン・パーカー。1991年公開だから、90年代半ばからの「ケルトの虎」と呼ばれたアイルランド成長期の前なんですねえ。
行き場もなく、そのへんの空き地で飛んだり跳ねたりしている大勢の子どもたち、失業給付の長蛇の列。なぜソウルをやるのかと聴かれて、マネジャーは「俺たちはヨーロッパの黒人だ」と答える。労働者階級の閉塞感と大量のビールが、ソウルに命を吹き込んでました。

 

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アルキメデスの大戦

「ドラゴン桜」の(といってもよく知らないけど)三田紀房のコミックを、ご存知「永遠の0」の山崎貴の監督・脚本で実写化。1933(昭和8)年の軍艦建造計画をめぐり、架空の若き数学者の活躍を描く…のだけど、プラモデルおたく渾身の戦艦大和再現映画という趣。

東京帝大を放校になった櫂(架空の人物、菅田将暉)を、航空母艦建造を主張する山本五十六(舘ひろし)が海軍にスカウト。対立する設計者・平山忠道(モデルは平賀譲、田中泯)の巨大戦艦案を潰すため、安過ぎる建造費の嘘を計算力で暴けと依頼する。
櫂はありがちな空気を読まない天才キャラ。目にするもの何でも巻尺で計測し、たちどころに方程式にしてしまう。プリンストン留学直前に、山本に巨大戦艦は過信につながり、開戦を招いてしまうと口説かれ、数学で日本を救おうと承諾する。部下(柄本佑)、恋人(浜辺美波)と驚異のスピードで戦艦設計を会得するあたりは格好いいものの、海軍に雇われたくせに、軍紀の壁とやらでコストのデータが入手できず、大阪の中堅造船社長(鶴瓶さん)に泣きつく。このへんが腰砕かな。ついに鉄鋼使用量から建造費を割り出す方程式を発見、移動中から会議の席まで計算し続けて、算出に成功。政治力で押し切られそうになるが間一髪、初めて目にした平山案の欠陥を鋭く指摘して見事、使命を果たす。

ここまでは痛快なんだけど、どんでん返しが待っている。山本の狙いは開戦阻止ではなく、開戦を免れないうえはパールハーバー空爆による短期決戦、そのための空母案だった、という種明かしの後、さらに、負けを認めた平山に壮絶な覚悟を聞かされて櫂は…という、まさかの展開。
ここで冒頭、1945年4月沖縄特攻作戦での戦艦大和の無残な撃沈シーンが生きてくる。大和が二千人以上を犠牲にした一方、米軍は機動的な航空機を駆使し、パラシュートで海面に浮かぶ兵士も救っちゃう。この違い、頭のいい人たちは何をしていたのか。苦いなあ。

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